杉江松恋の新鋭作家ハンティング 人肉食、吸血鬼、元王女の殺し屋……新人らしからぬ技量で読ませる『リストランテ・ヴァンピーリ』

 装飾過多の小説かと思いきやさにあらず、みんな必要な部品だったとは。

 第11回新潮ミステリー大賞受賞作『リストランテ・ヴァンピーリ』(新潮社)は、二礼樹のデビュー作である。

 いろいろな職業に就いている小説の登場人物はいるが、本作の主人公オズヴァルドほど変わったものはないだろう。彼はリストランテ〈オンブレッド〉の解体師なのである。何を解体するのか。人間の死体だ。〈オンブレッド〉は物好きな富裕層のため、ひそかに人肉食を提供しているのである。

 オズヴァルドがその日届いた死体を解体しようとしたときに事は起こった。死体の両眼がぱちりと開き、飛び掛かってきたのである。抵抗する間もなく、オズヴァルドは首を噛まれてしまった。

 死体を装っていた金髪碧眼の青年はルカと名乗る。なんと吸血鬼なのだという。吸血鬼に噛まれた人間が吸血鬼になるというのは迷信で、一週間苦しみぬいた後に死んでしまうという。助かる方法は一つしかない。ルカには双子の妹、アンナがいる。その血を飲むのだ。ただしルカは現在行方不明中である。一週間の期限を切られたオズヴァルドは、やむなく彼女を探し始めるのである。

 あるかもしれない近未来の物語として書かれている。舞台の国は、「とち狂った東の巨大な軍事国家」による侵略を受け、「銀翼」と呼ばれる爆撃機の群れによって国土を破壊し尽くされた。ロシアによるウクライナ侵略を念頭に置いて書かれたものだろうが、作中では「攻め入られた小国の味方に付い」たとされる「西の大国」が東の巨大な軍事国家支持に回ってしまう未来は、さすがに想定できなかったか。

 戦争の後遺症で国から秩序は失せている。だから人肉食レストランなどという無茶が罷り通るのである。裏側から社会を牛耳っているのは〈ザイオン〉と呼ばれる犯罪組織だ。〈ザイオン〉のために働く、エヴェリスという殺し屋が、オズヴァルドとルカと並ぶ主要な登場人物である。エヴェリスは白い髪の令嬢でヘビースモーカー、抜いたことさえわからないほどに速いナイフの名手である。今は闇の世界の住人となっているが、過去は王女であった。かつての王は八方美人のような人物で、聞いてはならない声にまで耳を傾けたために、国を傾けた。いつまでも譲位しない王を玉座から引きずり下ろしたのが、その孫であるエヴェリスだったのだ。愛用するナイフで、王の命を奪った。彼女は王位継承権を放棄し、殺し屋として生きていくことを選んだのである。

 人肉食に、吸血鬼に、元王女の殺し屋。開巻40ページほどで派手な道具立てがいきなり揃い、つかみは十分である。このあとさらに個性的なキャラクターが増えていくのだが、ここでは省く。最初にも書いたようにいささか装飾過多にさえ見える。しかしこれらの要素は書き捨てではなくて、後でしっかり物語の構成材として使われるのである。吸血鬼とはどのような存在かという設定は、物語を支える大黒柱となっていく。エヴェリスが属している〈ザイオン〉も、特色ある犯罪組織として書かれていて説得力は十分だ。

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