THE RAMPAGE 岩谷翔吾×木爾チレン『二人一組になってください』対談 「言葉が刃になっている今の時代に読んでほしい」

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 小説『二人一組になってください』(双葉社)が大きな話題を呼んでいる作家・木爾チレン氏と、THE RAMPAGEのメンバーで昨年初小説『選択』(幻冬舎)を刊行し、作家活動にも期待が高まる岩谷翔吾氏の特別対談企画が実現した。

 『二人一組になってください』は女子校を舞台に繰り広げられるデスゲーム小説。卒業式の日にあるクラスで突如、特別授業と称したデスゲームが始まる。そのルールは、毎回誰かと手を繋いで「二人一組」をつくること。しかし、余ってしまった一人には、容赦なく失格=死が突きつけられる……。

 こうした極限状態を描いたデスゲーム小説は、どのような着想のもとに生まれたのだろう。本作で描かれるスクールカーストやいじめについてどのように考えるといいのか。第一線で活躍する両氏がじっくり語り合った。(篠原諄也)

クラス全員の人生を生きたような感覚

左、岩谷翔吾。右、木爾チレン。

ーー岩谷さんが『二人一組になってください』を読んだ感想を教えてください。

岩谷:まず、タイトルの「二人一組になってください」という言葉に対して、無自覚だったというか、あまり意識したことがなかったんです。だから過去の自分は大丈夫だっただろうかと、振り返るようなところもありました。あと、よく27人もの生徒の人生を描き切ったなと。手を繋ぐ順番も練られていました。どのように考えたんですか?

木爾:実は順番を考えるだけで、ノートを3冊も使いました。何パターンも考えた上で、一番しっくりくるものを選んだんです。それだけで1ヶ月は時間をかけましたね。「この子は終盤まで残らせたいな」などと決めていきました。

岩谷:担当編集者さんも確認が大変ですね(笑)。

木爾:何回も間違っていないか、確認してもらいました。ある程度筋が固まったあとに、順番だけで校正をしてもらっているんです。それが間違っているとストーリーも変わってしまうので。全部決めてから書き出しましたね。

岩谷:手を繋ぐ順番には何万パターンもの可能性があるはずです。それを考えた上で書いたというのは、本当に拍手しかありません。

木爾:私も一作でこんな人数を描いたことがなかったので、書き終わった直後は屍みたいになっていました(笑)。私自身が27人の人生を生きたような感覚になったんです。

ーー作中の女子校のクラスには、一軍女子、二軍女子、三軍女子という、いわゆるスクールカーストがあります。本の冒頭ではそのヒエラルキーのピラミッドが図解されていたのも印象に残りました。

木爾:確かにここまでスクールカーストを可視化した小説は珍しいかもしれません。私自身、学生時代は三軍の下層にいたんです。当時は一軍や二軍の子を俯瞰的に見ていたところがありました。「この子は一軍のなかで一番えらい」「あの子は二軍のなかで上のほうだな」とか。それが本作執筆にも生かされていますね。

 どうせ可視化するんだったら、徹底的に細かく分けた上で、それぞれの視点から見える教室を描きたいと思いました。人数が多かったので「この子はどのカーストがいいですかね」などと、担当編集者と相談したこともありましたが(笑)。

岩谷:登場人物の名前が漆原亞里亞(うるしはらありあ)、白雪陽芽(しらゆきひめ)、瀬名桜雪(せなさゆき)などユニークな名前ばかりですね。どうやって決めていったんですか?

木爾:名前を決めるのもすごく時間がかかりました。作家さんによっては登場人物の名前にはあまりこだわらない人もいると思いますが、私は名前は大事だと思っているんです。一人一人、親として名付けるような気持ちで考えました。27人全員を覚えてもらいたいと思って。普通すぎず、でもキラキラネームすぎない、その子に合った特徴的な名前をつけるようにしました。

岩谷:一軍女子の朝倉花恋(あさくらかれん)という名前には納得しました。花恋は一軍っぽい(笑)。

木爾:そうですよね。岩谷さんがもし男子校の設定で書くとしたら、花恋みたいな一軍の生徒にはどんな名前をつけますか?

岩谷:何でしょうね……それこそ「流星」ですかね。これは一軍だろうな。(編注:俳優・横浜流星は岩谷の高校時代の同級生で、小説『選択』の原案を務めている)

木爾:「流星」は絶対に一軍ですね(笑)。

もしもデスゲームに参加したら?

ーーそもそも、女子校のデスゲームという設定にしたのはなぜですか?

木爾:第一にデスゲーム作品がすごく好きだったんです。私が『バトル・ロワイヤル』世代だったのもあるし、2021年に『イカゲーム』が世界的に大流行していて、一気見したらめちゃくちゃ面白くて。私もデスゲームを書いてみたいと思いました。『イカゲーム』を見終わってから本当に30分くらいで、プロットを書き上げたんです。

 私がデスゲームを書くならば、絶対に女子高校を舞台に描きたいなと思いました。タイトルの『二人一組になってください』という言葉がふっと降りてきたのは、学生時代の私にとって最も怖い言葉だったのを潜在的に覚えていたからでしょうね。二人一組になれなかったら失格という設定はゲームとして面白いし、メッセージ性もあるんじゃないかなと思って。すぐにあらすじと紹介文をまとめて担当編集者に見せると、「面白いからこれでいこう」となりました。

ーー岩谷さんは女子校のデスゲームという設定についてどう思いましたか?

岩谷:僕はLDHという男子校みたいな会社に所属しているのですが(笑)、本や映画などでは、女子校のドロドロとした世界を目にしたことがありました。男子の集団とは別物なのかなと思っていましたが、本作を読んだら心理的に理解できるところも少なくなくて、ドキドキしました。THE RAMPAGEだけでも16人いるんです。だからメンバーでこの二人一組のゲームができてしまうじゃないですか。

木爾:ぜひやってみてください(笑)。

岩谷:いや、解散の危機に陥ってしまうので(笑)。でも、この作品では急に普段のクラスメートとデスゲームが始まるんですもんね。それは例えば会社でもありうる設定なんだと思うと、ドキドキします。

 小説内のスクールカーストの話はチレンさんの実体験に基づいているとのことでしたが、学校ではどんなシチュエーションで「二人一組になってください」と言われました?

木爾:体育や化学の実験の授業などで言われた記憶があります。特に多かったのは、やっぱり体育ですかね。私はいつも余っていたので、先生と組まされたりして、すごく嫌だったんです。

 私の夫のけんごくん(TikTokやYouTubeを中心に活動する小説紹介クリエイター)は「『二人一組になってください』という言葉をそんなに怖いと思ったことがなかった」と言っていました。だからこの言葉を怖いと思う人と、そんなに意識してなかった人がいるんだなと思って。岩谷さんがあまり意識されていなかったのは、学生時代やっぱり一軍だったからなのかな?と、思ってしまいました(笑)。

岩谷:いやいや、一軍じゃないですよ(笑)。地味な子でしたから。将棋部に入っていて、将棋三段を持っていて。本当に将棋好きだったんです。僕は小学5年生のときにダンスを始めました。それも地味だったのを払拭したかったからでした。その後に中学デビューをして一軍に駆け上がりたいという気持ちもあって。

木爾:そうなんですね。意外です。

岩谷:あと僕は親が転勤族だったので、いつも転校生だったんですよ。一番大変だったのは、中3のときに東京の学校に転校したことでした。

木爾:岩谷さんが転校してきたら、「ある日イケメンが転校してくる漫画」みたいなシチュエーションじゃないですか!

岩谷:中3だともう友達関係も固まっている。だから最悪ですよ。5月の頭に修学旅行があって。4月には班決めをして、それぞれの行きたい場所を決めないといけませんでした。不良グループか、隠キャグループか、そのどっちに入ったらいいのか、迷ってしまって。

木爾:結局、どっちにしたんですか?

岩谷:当時はもうLDHのスクールでダンスをやっていたので、不良グループに行くわけにもいかなかった(笑)。その中間層をうまく狙っていましたね。本当に修学旅行の班決めは、心臓バクバクだったことを思い出します。

ーーもし自分がデスゲームに参加したら、どのように立ち振る舞うでしょうか?

木爾:岩谷さん、どんな感じになるんだろう。

岩谷:どうでしょう(笑)。この二人一組のゲームは、同じ人と二回は組めないというルールでしたね。僕は将棋3段を持っているから、組み合わせや順番については早く計算できると思います(笑)。

木爾:確かにデスゲームは将棋っぽい一面がありますね。

岩谷:うまく計算しないと、バッティングしてしまって失格になる。それを避ける術は人よりは長けているかもしれない。でもあとはわからないですよね。急に裏切られたりもするわけですし(笑)。

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