杉江松恋×千街晶之×若林踏、2024年度 国内ミステリーベスト10選定会議 『地雷グリコ』や『了巷説百物語』は何位に?

 毎年恒例の〈リアルサウンド認定国内ミステリーベスト10〉。投票ではなく、千街晶之・若林踏・杉江松恋という3人の書評家がすべてを読んだ上で議論で順位を決定する唯一のミステリー・ランキングです。2024年度についても2024年12月14日に選定会議が開かれ、以下の11作が最終候補として挙げられました(奥付2023年11月1日~2024年10月31日)。この中から議論により1位の作品が選ばれました。選考の模様をお届けします。

『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』南海遊(星海社FICTIONS)
『了巷説百物語』京極夏彦(KADOKAWA)
『彼女が探偵でなければ』逸木裕(KADOKAWA)
『虚史のリズム』奥泉光(集英社)
『地雷グリコ』青崎有吾(KADOKAWA)
『日本扇の謎』有栖川有栖(講談社ノベルス)
『伯爵と三つの棺』潮谷験(講談社)
『春のたましい 神祓いの記』黒木あるじ(光文社)
『檜垣澤家の炎上』永嶋恵美(新潮文庫)
『ぼくは化け物きみは怪物』白井智之(光文社)
『ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に』斜線堂有紀(双葉社)

まずは6位から次点まで

杉江松恋(以下、杉江):まず6位から決めていきましょうか。上位5作と次点も含めた下位6作の境界ということで。

若林踏(以下、若林):暫定的に今点数をつけていますが、3人全員が票を投じた作品が上位5作に入っていますね。それは動かないとして、1人もしくは2人が票を投じた作品の首位を選ぶということになると思います。とすれば『日本扇の謎』ではないでしょうか。いかに真相を推理するかという点を高く評価します。特殊設定など、それ以外の趣向でおもしろさを出している作品は他にもありましたが、肝心要の推理の部分で勝負したという点で、他にない独自性を持っています。

千街晶之(以下、千街):それでしたら、7位に『春のたましい』を推したいです。黒木あるじさんは実話怪談などので活躍してこられた方で、ミステリー・ファンにとってはノーマークでしたが、まさか推理作家としてこんな実力があったのか、と意外でした。こういう作品があったということはぜひ記録に留めておきたいと思います。

杉江:最終候補に残っている作品のうち、『春のたましい』『永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした』の2作が初めてミステリーに挑戦した書き手の作品ですが、その順番の並びでいいですね。謎解きの尖鋭度という意味では『永劫館超連続殺人事件』はかなりのものですが、もう1作『ぼくは化け物きみは怪物』というこれも冒険した作品があります。方向性に違いがあって、『永劫館』は一点突破型、『ぼくは化け物』は手数が多いといいますか。

若林:その2作でしたら、『ぼくは化け物』を『永劫館』よりも上位に置きたいと思います。

杉江:了解です。もう1作、『檜垣澤家の炎上』についても議論したいです。これは広義のロマンスですね。女性主人公の運命転変が、彼女によってなされる策略の顛末と共に語られていくという内容です。最終候補に残った中で、この作品だけ毛色が違いますね。

若林:ジャンルとしてはミステリーであると同時に大河小説ということになるでしょうか。

千街:とりあえず10位にこれは置いておきませんか。

若林:賛成です。あと、これだけミステリー色が強いものが並ぶと『虚史のリズム』はジャンルを超えた小説ということもあり、次点にするしかないのではないかと思います。

杉江:そうですね。私が強く主張して11作に残していただいた作品ではあるのですが、これ以上頑張るのは心苦しい(笑)。帯にメガを超えたテラノベルとあるように、ありとあらゆるジャンルにまたがる小説なのでミステリーだけで頑張る必要もない。ここでは次点でいいでしょう。これで6位から次点までが決まりました。問題はここからです。どれも良作で議論が難しいですが、とっかりとして『了巷説百物語』はどうでしょうか。残った5作の中では活劇の要素が強い作品です。さっきの『檜垣澤家の炎上』もそうでしたが、これも作品の要素が違いますよね。

若林:いろいろな要素を詰め込んだエンターテインメントと言うべきでしょう。

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