人はなぜ神という物語を求めるのか? 小川哲、宗教をテーマとした短編集『スメラミシング』を読んで

 「啓蒙」は、神が禁忌とされた惑星の真実が、歴史学者のたどり着いた歴史の矛盾から露わになっていく。これも人と神の物語であり、他の作品と響き合う。

 ラストの「ちょっとした奇跡」は、おそらく本書で一番分かりやすい内容だ。ある事情で自転が停止した地球。地球上のすべての地点が半年ごとに白夜と極夜を繰り返し、わずかな人類が二つの船で「昼と夜の境目」を移動し続けることで生きている。ただし二つの船は、常に地球の反対側に位置しており、それぞれの船の住人が会うことはない。しかも物資が尽きた時点で、人類は滅亡する。

 作者はまったく救いのない設定を創りながら、ボーイ・ミーツ・ガールの物語を実現させる。少年少女の邂逅は甘くなく、だけど温かなものが残る。“ちょっとした奇跡”に救われた気持ちになり、心地よく本を閉じた。うん、やはり私にとっての神とは、面白い物語なのだなあ。だから、小説を読まずにはいられないのだ。

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