好調出版社『アルファポリス』 ベストセラー連発の生え抜き編集者・滝澤友梨に聞く、ヒット量産の秘訣は?

■電子書籍を意識した表紙への細かな配慮

漫画は電子版が隆盛ではあるが、アルファポリスは紙のコミックも販売する。大事な作品をモノとして所有するという体験にも力を注ぐ

――出版界全体の動向を見ても、電子書籍の売上がここ数年で急激に伸びています。なぜ、電子がそんなに強いのでしょうか。

滝澤:置き場所をとらないのと、手軽に買えて読めるためだと思います。ちょっと読みたいと思ったときにスマホで買って、読めて、荷物にもならない、これは大きな魅力だと思います。あと、一度買えば、漫画をある程度半永久的に持っていられるのも電子の強みですね。ただ、紙のコミックはやはり魅力的です。紙を捲って楽しむという行為は特に好きな作品においては何物にも代え難い体験です。

――どの漫画もとてもデザイン性が高いですね。こだわっている部分はありますか。

滝澤:書影を作る際は、常に電子を意識して作っています。例えば、表紙に原色を使っていることです。『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』は、主人公の名前が“スカーレット”ということもありますが、3巻まで赤いドレスを出し続けていますね(笑)。他の作品では、背景色を目立つ1色で統一したこともあります。

――戦隊ヒーローでも赤が中心にいますが、赤は強い色ですよね。

表紙デザインは特に重視。スマホで読者が選ぶ際に埋没しないよう配色は特に重要視をしているという

滝澤:赤はスマホの小さい画面でスクロールした時も、パッと目に留まるのです。私は書影がデザイナーから上がってきたら、わざと小さくして、遠くから眺めて映えるかどうかを確認します。ランキングの画面上に当てはめて、前後の書影にインパクトで負けていないか調べることもあります。

■才能を見つけるための秘訣

――新人漫画家の発掘は編集者の重要な仕事です。アルファポリスさんでも漫画から小説まで、数多くの新人賞を主催していますね。滝澤さんは、有望な新人を見つけるために心がけていることはありますか。

滝澤:新人賞の応募者から才能を見出すこともありますし、PixivやXにUPされた一枚絵や4コマ、ちょっとした原稿など、少しでも光るものがある方には「漫画に興味ありますか?」と声をかけてしまいます。

――Xはよく見るのですか。

滝澤:めっちゃ見ます(笑)。ビビッと来た方にはDMから連絡することもありますし、メアドを書いている方にはメールも送ります。DMもメールもない方は、マシュマロに依頼文を書くこともあります。

――といっても、今や1億総クリエイター時代などと呼ばれ、ネット上にイラストや漫画をUPする方がたくさんいます。そのなかから、才能ある人材を見出すのは大変ですよね。どんなポイントを見ているのですか。

滝澤:私が惹き込まれるのは、印象的な1コマを描ける方ですかね。あと、“瞳”の描写が上手な漫画家は目を惹く絵を描ける方が多い。なので、キャラの目はしっかりと見ますね。どんな感情のときに、どんな目を描いているのか、丁寧に見ます。どの出版社の編集さんも、目は見ていると思いますよ。

■目力とテンポ感が重要

『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』を第一話より

――人気漫画のキャラクターは目力が強いです。

滝澤:私が編集者になった頃に書店さんを見て回っていたら、パッと目に留まる漫画は表紙の目力が強い作品が多いとわかりました。あと、スマホの広告で漫画のコマが回ってくることがあると思いますが、あれだけではストーリーの全貌なんてわからないじゃないですか。でも、目力がある印象的なコマがあれば、購入のボタンを押してしまいますね。

――私も目力に惹かれてポチッてしまうことが多いので、よくわかります。

滝澤:あとは、ストーリーのテンポ感でしょうか。スマホ画面をテンポよくスライドし、読み進められるかどうかは重要です。

――現在、滝澤さんが担当している漫画家さんは何人いるのですか。

滝澤:連載作家は15人くらいです。デビューに至っていない方は、25~30人くらいでしょうか。才能を惚れ込んで声をかけていますから、担当している作家さんの得意分野などは、しっかり自分の中で理解できるように努めています。

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