伊坂幸太郎、東野圭吾、桐野夏生……日本発のミステリー/SF、世界進出の可能性を占う

 SFはといえば、こちらも日本から海外へと進出を模索する動きがある。古くは1963年に星新一の代表作「ボッコちゃん」が米国のSF専門誌「F&SF」に掲載されたことがあったが、大ベストセラーとなった小松左京の『日本沈没』ですら、2012年に米国でVIZ Mediaから出版さるまで英語版が刊行されていなかった。だが最近は、英語版『日本沈没』と同じビズメディアのレーベル「ハイカソル」から神林長平の「雪風」シリーズや伊藤計劃『ハーモニー』、野尻抱介『太陽の簒奪者』、藤井太洋『オービタル・クラウド』といった現代の日本SFが刊行されている。

 日本ではライトノベルとして刊行され、トム・クルーズ主演の映画にもなった桜坂洋『オール・ユー・ニード・イズ・キル』も「ハイカソル」レーベルで刊行された作品だ。ライトノベルの英語版は谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズなどが刊行されているが、アニメの原作として読まれることが多い。ハリウッド映画の原作として評判を呼んだ『オール・ユー・ニード・イズ・キル』は、09年に英語版が出てハリウッド映画の原作になるという異例の展開で、日本SFの将来に希望をもたらした。

 エンタメ小説の映画化については、伊坂幸太郎の『マリアビートル』が『ブレット・トレイン』として映画化されたものの、SF作品はあまり後に続いていない。ただ希望はある。中国発のSFとして話題の『三体』は、劉慈欣によって中国語で書かれた作品を、中国からアメリカに移った人気SF作家のケン・リュウが英訳して刊行したところ、世界で最も古い歴史を持つSFやファンタジーの賞、ヒューゴー賞の長編小説部門を受賞する快挙を成し遂げた。これがきっかけで世界的なベストセラーとなり、ドラマ化から映画化へと進んでいる。

 日本のSF作家では未だ誰も届いていなかっただけに、先を越されてしまった格好だが、逆に言うならアジア圏のSF作品でも米国や世界で通用するということだ。欧米を中心に世界からSF関係者が集まるワールドコン(世界SF大会)には毎年のように日本から作家が出かけていって、作品や日本SFのプレゼンテーションを行っている。こうした活動が実を結び、良い翻訳家と版元を得て『三体』級の大ヒットとなる日本SFが生まれて欲しいものだ。

 ちなみにワールドコンは、2023年は中国の成都で開かれ、世界中からSF関係者が集まり歓待を受けた。『三体』のヒットもあって中国は今、「科幻(SF)小説」ブームが起こっており、日本の作家も頻繁に作品が中国語訳され雑誌などに掲載されている。人口が多くヒットすれば売れ行きは日本の比ではない中国を狙うというのも、海外展開の選択肢のひとつといえそうだ。

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