人気漫画家 生成AIに絵柄を無断学習される“なりすまし横行”に苦言「削除困難ギリギリ現行法を回避する」
■生成AIが多方面で悪用される
――樋口先生は生成AIの問題について盛んに情報発信しています。もともと、こうした分野に関心はおありだったのでしょうか。
樋口:いえ、関心も知識もほとんどありませんでした。偶然、他の人の被害を目撃してから学んだ感じです。漫画を描いている時は気にする余裕もなくて……。生成AIの問題に気付けたのは療養中だったからですね。……本音を言えば、生成AIの問題なんて無視して漫画を描いていたいです。考えるだけで精神的に辛いんですよ。今後もどんな嫌がらせを受けるかわかりません。ただ、漫画家は問題に気付く余裕のない人や、発言しづらい立場の人も多いので頑張っています。
――生成AIは様々な犯罪に悪用される懸念が出ています。樋口先生が特に問題だと考える事例はなんでしょうか。
樋口:いわゆる“剥ぎコラ”ですね。俳優さんや一般人の写真などを使い、勝手にヌード画像に加工するものです。コスプレイヤーさんも、剥ぎコラを作られた方が複数いますね。既に剥ぎコラアプリが出回っているので、ハードルが下がってしまっています。そして、ディープフェイクの問題です。米国大統領や岸田首相のディープフェイクは有名ですね。今は一般人では見分けがつかないレベルのフェイクも多くなりました。また、海外ではいじめでディープフェイクポルノを作成され、自殺した人が何人もいるそうです。
――そうした事例を聞くと、生成AIを誰でも使える現在の環境が恐怖だと感じます。
樋口:漫画やイラストでは“画力のハードル”がなくなったため、特定のキャラや画風を使い、ガイドラインを無視した金銭目的や“いいね”稼ぎのための生成AIを使った二次創作が乱造されています。個人的には、今後、キャラや画風が嫌がらせやヘイト発言、詐欺に使われる可能性を危惧しています。
■二次創作が規制される可能性も
――生成AIの問題と一緒に語られることが少なくないのが、同人誌やファンアートなどのいわゆる二次創作の問題です。樋口先生は二次創作を嫌いなわけではないんですよね。
樋口:むしろ描いてもらいたいです。自分の作品の同人誌を買うのが夢でした。しかし、現在では僕の作品の二次創作は泣く泣く禁止しています。現状の生成AIは盗品の塊ですから、もし二次創作にそんなものを使われたらとても悲しいです。さらに、手描きの二次創作は逆に生成AIに盗まれる可能性があります。そんなことは絶対に起こってほしくありません。
――二次創作が放置されているのだから、生成AIの規制はおかしいという意見もあります。
樋口:生成AIで“キャラA”と指示してそのキャラが出るのは、“キャラA”の画像データを勝手に使っているからなんですよね。そんなの二次創作じゃなくて二次利用でしょ、って思うんです。下描きを生成AIで完成させる方法だって、結局は誰かから盗んだ画像から作られるんです。手描きと同列に語るのがおかしい。そもそも、二次創作のガイドラインは作者が決めるものです。これを機に、二次創作のプラットフォームの見直しも必要だと思います。二次創作自体嫌いな作者も多いと聞くので、生成AIを含め、細かく意思表明できて、それが尊重されるようになってほしいです。