日本の歴史がゾンビまみれに……! 豪華作家陣によるホラー小説集『歴屍物語集成 畏怖』がおもしろい

 蝉谷めぐ実の「肉当て京伝」は、1793年の江戸は銀座で、戯作者の山東京伝と、自分は人魚だという女房の生活が描かれる。一度死んで甦ったが、徐々に腐りゆく女房と、京伝は不気味な肉当てゲームをするのだ。京伝とゾンビを使った、奇妙な夫婦愛の物語である。

 そしてラストは、澤田瞳子の「ねむり猫」だ。舞台は、1826年の江戸城大奥。ゾンビになるのは、なんと大奥で飼われていた猫の漆丸である。生き物がゾンビになる“腐り身”のシステムと、それを大奥が長年に渡り押さえ込んできたという設定がユニークだ。ほうっておけば腐り身になる漆丸を焼くように命じられた又者の少女・お須美の選択と決断にも注目したい。ゾンビを使いながら、作者は社会と人間を見つめているのである。

 このように五者五様のゾンビ物語を楽しんだ後、終章で話を聞いていた男の正体が明らかになる。なるほど、だから東北だったのか。最後の最後まで史実とクロスさせた、唯一無二のゾンビ小説本なのである。ただ、続けようと思えば、幾らでも新たな話を創れるはずだ。だから、シリーズ化を期待している。ゾンビまみれになった日本の歴史を、ぜひとも知りたいのである。

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