「商業カメラマンが育っていないんです」ベテラン雑誌編集者が嘆く、出版業界の構造的な問題点

■素人フォトグラファーに仕事を発注?

 イツバネットの代表取締役・河戸弘太氏が、小・中学校の入学式を撮影するフォトグラファーをあろうことかXで募集したとして、炎上した。同氏はXを更新、謝罪に追い込まれてしまったニュースが話題となった。撮影は中止することに決めたという。


 募集要項は「一眼レフで人を撮った事がある方」というもので、報酬は3万5000円というものだった。この募集要項を読んだ限りでは、趣味レベル、素人レベルのフォトグラファーが応募してくる可能性があり、しかも教育現場に立ち入る仕事がそんなものでいいのかと、X上で議論が巻きおこった。

  最近、アニメーター志望の中学生にアニメの原画を発注したというニュースが騒動になっていた。この事件の真偽は不明である。しかし、今回のフォトグラファー募集の事例を目にすると、あながち嘘ではないのではないか、実際起こってもおかしくないのではないか、と思わざるを得ない。

  あらゆる業界で起きていることだが、納期ばかり厳守する一方で、専門職をないがしろにする発注者が続出している印象だ。写真の場合は「撮れていればいい」、アニメの原画は「描けていればいい」という感覚が蔓延してきており、専門性の高い技術が求められなくなりつつある。

■若いフォトグラファーが育っていない?

  筆者は長年、紙媒体で記者の仕事をしているのだが、一緒に仕事をする編集者は「若い商業カメラマンが育っていない」と嘆くことが多い。編集者はこう話す。

 「若いカメラマンの写真を見ると、ポートフォリオの段階で首をかしげるクオリティのものが少なくない。アイドルの写真集などを見ると、一昔前では考えられなかった写真が多く掲載されており、唖然とすることがあります。確かに、ポートレート、風景など、特定のジャンルに特化して写真を撮れる人は健在です。ただ、商業カメラマンに求められる、なんでも撮影できるスキルを持つ人材が育っていません」

  編集者が言うには、昭和の時代は、なんでも撮影できるフォトグラファーがたくさんいたという。それは、当時は師匠のもとで修業して一通り技術を覚え、経験を積んでから独立するのが代表的な流れであったためである。

  というのも、かつてはカメラを使いこなすだけでも難しく、素人ではきれいな写真を撮るのが難しかった。ゆえにフォトグラファーは専門職というイメージが強く、専門の道具を一から覚える必要があったし、万能のスキルが求められたのである。

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