インターネット広告費、なぜ過去最高を更新? 背景に見逃し無料配信動画サービスなどの充実

 一方で伸びているのが、テレビとラジオのデジタル広告である。radikoなどラジオ由来のWebメディアでのデジタル広告費は前年比127.3%の成長率。さらにテレビメディア関連のデジタル広告費は前年比126.6%の成長率となっている。オールドメディアというイメージも強い近年のテレビとラジオだが、その活動領域をWebに伸ばした結果、広告費が毎年前年を上回る勢いで流れ込み続けているのである。

 特にテレビ由来のWebメディアに関して言えば、見逃し無料配信動画サービスなどの充実が大きい。時間や放送エリアの制限なしでテレビ番組を見られるこれらのサービスが近年多くの視聴者の支持を得ていることが、広告費の伸びからも見えてくる。また、インターネットテレビサービスでもコンテンツの選択肢が増えており、そこに広告費が流れ込んでいることがわかる。

 Webでの音声メディアについても、企業の注目度が上がり続けていることがわかる。Podcastなど音声メディア配信はインターネットでは長年親しまれてきたが、近年はツイッターのスペース機能など選択肢が増え、またradiko利用者は2016年の4.6%から2022年の10.6%へ増加するなど、音声配信への関心は高まり続けている。広告費の増加は、この状況を受けてのことだろう。

 こうしてみると、広告費という面ではWebにおいてもレガシーメディアが運営するサービスが伸びていることがわかる。このことは、既存のWebサイトの収益化が難しくなっていたり、YouTuberの収入が伸び悩んでいることと矛盾しない。「皆が知っている、親しみやすくて荒削りな要素がない、ウェルメイドなコンテンツ」が本格的にWebに参入し、コロナ禍によってそれらのコンテンツに対する需要が急増、その状況に広告費がついてきた……という状況のように思う。

 書いてしまうと身も蓋もないが、しかし動画配信サービスとテレビ番組の配信サービスがこれだけ身近なものになったということは、そこに付随する広告もまた存在感を増すということでもある。その一方で、広告の質が落ち収益化が難しくなり続けるテキストベースの従来型Webメディアがレガシーな存在になる日は、意外に早いのかもしれない。思わずメディアの栄枯盛衰に思いを馳せてしまう、2023年の広告費である。

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