第二のあいみょんは生まれるか? 話題の書『ブックオフから考える「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』藤谷千明・評
■過去最高益を記録したブックオフ
さて、今は2024年である。2020年代のブックオフに「文化」の萌芽はあるのだろうか。この原稿執筆にあたって、筆者は都内のブックオフを、具体的には、立川駅北口店(BOOKOFF SUPER BAZAAR)、立川栄店、八王子大和田店、八王子めじろ台店、新宿西口店などを巡ってみた。ひとこと感想いいですか?
「……ブックオフなのに本ねーじゃん!」
すみません、思わず5年前のCMの寺田心さんの名台詞を引用してしまいました。現在のCMキャラクターはあのちゃんなのに。
とはいえ、実際に「本がない」わけではなく、存在感がないのだ。店内を見渡しても「なんとなく」立ち読みしている人たちも少なからずいるが、どちらかというと真剣に探している人のほうが多い。何を? トレカです。
近年、ポケモンカードゲームなどを筆頭に何度目かのトレーディングカードブーム真っ只中であり、高額なプレミアがつくカードも少なくない。ブックオフは二次流通販売にとどまらず、主催のカードゲームイベントも全国で開催されており、直近では12月25日に埼玉県の大宮ソニックシティ(※公称2500席)で遊戯王の大会が行われていた。
日経新聞によると、ブックオフの2023年の5月期に過去最高益を更新したそうだ。
売上高は「書籍を除く全ての品物の売上高で前の期より増収」とある。書籍を除く全ての? ……ブックオフなのに本売れてねえじゃん。ブックの売上オフじゃん。たしかに、筆者が足を運んだ店舗のほとんどが「ウチの主力はトレーディングカードですよ〜」といわんばかりに全面展開しているわけで。ここはもうトレカオフじゃん。
しかし本以外のアイテムにだって、当然ながらランダム性はある。とある店舗ではSDGsの一環として食料品も販売されていた。そばセットとか。また、貴金属を扱うブックオフでは、おばあちゃんの形見にしか見えないトラディショナルなデザインのブローチが置かれている棚の向こう側に、どう見ても婚約指輪のようなデザインの指輪が並んでおり、それぞれの人生を勝手に想像してしまった。これもまた「なんとなく性」による商品陳列の為せるわざなのだろうか。
トレカや古着、婚約指輪やそばセットまで、こんなに多様なものを売りだすようになっても、「ブック」の売り場を完全になくすことはないことも、また不思議な話である。不採算部門をカットしないのも「なんとなく性」なのだろうか。
トレカ目当てでブックオフに来店した人だって、「なんとなく」本のコーナーに足を運び、そこで新たな本との出会いが生まれるかもしれないし、そもそもトレカだって「文化」である。今やBOOKOFFの店舗ページには「カードゲーム対戦コーナー」の有無が記されているほど浸透しており、毎週末は何かしらのイベントが開催されている。二次流通を含めたトレカ販売店は多数あるが、全国チェーンでここまで展開している店はブックオフくらいなのでは。人が集まる場所に「文化」は生まれる。ブックオフで育ったカードゲーマーが世界を穫る可能性だってあるのだ。つまり、ブックオフが生み出す「文化」の幅は無限に開かれている……のかもしれない。