小説家 清水晴木 × ドラマ脚本家 水橋文美江『さよならの向う側』対談 小説とドラマ、それぞれの魅力

3作目『さよならの向う側 Time To Say Goodbye』

 『さよならの向う側』(マイクロマガジン社)は、大切な人との“死後の再会”を描いた感動小説。2021年に第1巻『さよならの向う側』が刊行されて以来、『さよならの向う側 i love you』(2022年5月発売)、『さよならの向う側 Time To Say Goodbye』(2023年7月発売)が発売され、シリーズ累計4万部を突破。2022年にはTVドラマ化され、多くの人の心に感動を呼んだ。

 「死後、最後に1日だけ現世に戻り、会いたい人に会える時間が与えられる。しかし、会うことができるのはあなたが死んだことをまだ知らない人だけ」というルールの中で、さまざまな人たちの織り成す物語は、どのようにして生まれ、広がっていったのか。著者の清水晴木氏と、ドラマの脚本を担当した水橋文美江氏の対談をお届けする。(南 明歩)

子どもからお年寄りまで楽しんでもらえる作品

清水晴木氏

――まず、ご自身の作品がドラマ化すること、そしてその脚本を水橋さんが担当されると知ったときの、清水さんの率直な感想を教えてください。

清水晴木(以下、清水):とにかく嬉しかったですね。僕は元々脚本家を目指していたくらいですから、作品の映像化は夢の一つでした。だからまずは「あぁ夢が叶ったんだな」と。しかも、小さいころに観たドラマで印象に残っているのが『みにくいアヒルの子』(1996年放送/水橋文美江・山崎淳也脚本)で、ああいった温かみのある作品に影響されてハートフルな作品を書くのが好きになったので、水橋さんに脚本を書いてもらえるのは本当に嬉しかったです。

水橋文美江(以下、水橋):ありがとうございます。光栄です(笑)。

上川隆也氏が演じた案内人

―-実際にドラマを観た印象はどうでしたか?  ご自身の作品が映像になったことで、清水さんの中でイメージの変わったキャラクターなどはいましたか?

清水:全体を通して、原作のあたたかさやユーモア、切なさをしっかり描いてもらっていてありがたかったです。上川隆也さん演じる案内人を初めて見たときは、自分のイメージより少し年齢が上の印象を受けました。ただ、あの年代にしてもらうことで案内人のストーリーが描かれる最終話の繋がりがすごく良くなっていましたし、何より上川さんの穏やかな喋り方はまさに案内人のイメージにぴったりなんですよね。実はドラマを観た後、小説の続きを書こうとして案内人のセリフを考えていると、頭の中で上川さんが喋り出すこともありました(笑)。だからドラマ放映後に書いた3巻は、ドラマからの影響も受けて完成した作品だと思っています。

――水橋さんは、原作を読んでいかがでしたか?

水橋:私はプロデューサーから「いい作品なのでとにかくドラマにしたい。まず原作を読んでみて」って言われて読んだんですけど、「あぁ、これは本当にドラマにして多くの方に届けたいな」と思いました。死んだ人を描いている作品ではあるんですけど、生きているうちにちゃんと日常を大切にしなきゃという希望もすごく感じられる読後感がありますよね。キャストの皆さんからも原作の評判がすごく良くて、「あれいい作品ですよね」って自ら進んで出てくれる方が多かったと聞いています。それはみんなでドラマを作るという上でとても大事ですから、原作の力のありがたさを感じました。引き受けたあとに、清水さんが脚本家を目指してたらしいと知って、「あ、やばい!」って焦りましたけれど(笑)。

1作目『さよならの向う側』

――脚本を書く上で苦労した点はありましたか?

水橋:実は結構スムーズだったんですよね。すでにイキイキとしたセリフがたくさんあって、人が動いている感じが想像できましたし、キャラクターもきっちり書き分けられているし、再会のルールもわかりやすいし矛盾もないので。原作のあるものを映像化するときって、「ここはどうしよう?」と悩むことが多いんですが、今回はそれが全く無くて、迷いなく組み立てていくことができました。放送時間や予算などの関係で描き切れなかった部分はあるので、やっぱり反省点は色々ありますけどね。

清水:脚本の勉強をしていたときからの僕の癖なんですけど、基本的に映像を完璧に思い浮かべてから書くようにしてるんですよね。あと僕はセリフでシーンを進めていきたいタイプなので、もしかしたらそこら辺が映像化する際のスムーズさに繋がったのかもしれないですね。

水橋:うんうん。しかも読んでいるときにスーッと入っていく感覚があるんです。それはとても魅力的なことだと思います。私には大学生の娘がいるんですが、私宛に送っていただいた原作の本を娘が持って行っちゃって、今友達の間で回し読みしているらしいんです(笑)。最近は電子書籍が流行っているけど、私は紙の本を開いて読むという体験もしてほしいと思ってるから、すごく嬉しく思ってます。だからこの作品は若い人にとっても読みやすいんだと思うんですよね。

清水:確かに。僕も、小学生の子が、この本で読書感想文を書いてくれたという話を聞きました。

水橋:小学生でもちゃんと読めると思います。あと、「自分だったら誰に会うか」って想像して話し合ったりするのも楽しいですしね。「自分が死んだことを知らない人って、誰がいるだろう……」って考えたりすると盛り上がりますよね(笑)。

清水:その唯一の枷がポイントなんですよね。亡くなった人に会いに行く物語って、今までも色々な作品が生み出されてきたと思うんですが、その枷があることで色々なやり方で頑張る人たちを描けたのが良かったかなと思っています。

水橋:単純な話のようで、実は今までの人生を色々振り返って自分を見つめなおさなきゃいけないという深さがあるのが良いですよね。あとこの作品は、人に勧めやすかったです。俳優ありきの作品でもないし、観た後は気持ちがあたたかくなるから、ちょっとでも心を豊かにしてもらえたらいいなっていう感じで、「いい話だから観てみて!」って結構周りに勧めています。普段は、自分が脚本を書いたドラマを周りに勧めることってあまりないんですけどね。

清水:小説に関しても、「安心して子供に勧められる」ってよく言われます。過激な描写とかもないので、子どもからお年寄りまで楽しんでもらえるのかなと。

水橋:死を扱ってるんだけど、そんなに暗くならないし、むしろ明るくなれる。シビアな話ではあるけどファンタジー要素もあるので柔らかく観れますよね。

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