『ONE PIECE』尾田栄一郎は絵をどこまで描いている? 努力とこだわりで確立した“一貫性のあるアートワーク”
「週刊少年ジャンプ」での連載が“最終章”を迎え、さらに大きな盛り上がりを見せている『ONE PIECE』。現在、作者の尾田栄一郎氏が目の治療のため休載に入っており、7月18日発売の2023年33号での再開が待たれている状況だ。本日7月4日にはコミックス最新刊となる106巻が発売されており、過去のエピソードを復習している人も多いだろう。
1997年から26年間、週刊連載というハードワークを続けてきた尾田氏。単行本を読み直していて気づかされるのは、細部まで“尾田ワールド”が貫徹された作画の妙と、その労力だ。
特に目を引くのは群衆の描写で、わりとありがちな「アシスタントが描いている」と一目でわかる、違和感のある人物がいない。これは、ファンにはお馴染みの隠しキャラ「パンダマン」が自然に紛れ込み、さながら『ウォーリーをさがせ!』のような楽しみを生み出すことにもつながっている。
実際、尾田氏はどこまで自分自身の手で描いているのか? 実はコミックス52巻(2008年12月刊行)の質問コーナー「SBS」で、そんな疑問に本人が答えている。
読者からの「尾田先生が全部下描きをしているのか」という趣旨の質問に対して、尾田氏は「とんでもない」と否定。スタッフが設定画から多くのことを汲み取り、手抜きなく描いてくれている、とその仕事を称えながら、一方で「〝生きて動く物〟は100%僕が描いている」と明かしていた。
「生きて動く物」とは何か。そこには、群衆や動物はもちろん煙や雲、海などの自然物も含まれるという。その理由は「動く物を人に任せると、表現にムリが出る」とのことで、100巻を超えた現在の状況は不明だが、少なくともコミックス52巻時点までは、そのこだわりを貫いてきたということになる。
雲や海も含まれるということは、シチュエーションによって背景もかなりの程度描き込んでいることがわかる。海賊団同士の集団戦が行われたり、大勢の人が集まったりするシーンはもちろん、航海中の牧歌的なコマでも、流れる雲や波の描写は細やかで、体に変調をきたすのも納得してしまう作業量だ。
尾田栄一郎の名前が「絵が上手い漫画家」の代表例として挙がることは、その知名度と比較して多くないかもしれないが、作品のアートワークには一目でそれとわかる個性と一貫性がある。
2016年に刊行された 『ジャンプ流 vol.3 まるごと尾田栄一郎』によれば、画力を向上させるため、手描き時代のディズニーアニメからキャラクターの表情を描き出し続け、また「漫画的な絵だけでなく写実的な絵も描けなければいけない」と、映画雑誌を見て俳優たちの似顔絵を描いていたというエピソードが明かされている。『ONE PIECE』の絵は努力の上に確立され、さらにこだわりが利いたものだということだ。
冒頭に記したとおり、『ONE PIECE』の連載再開は7月18日発売の「週刊少年ジャンプ」2023年33号より。再び動き出す物語を楽しむとともに、「生きて動く物」の作画についても注目してみると、普段の一話分以上のありがたみが感じられるかもしれない。