『SLAM DUNK』の主人公は流川楓だった? 井上雄彦の漫画家デビュー作『楓パープル』に見る“名作の原型”

 大ヒット上映中のアニメーション映画『THE FIRST SLAM DUNK』。往年の原作『SLAM DUNK』ファンを喜ばせただけでなく、新たなファンを生み出し続けている。

 映画が宮城リョータ視点の物語になることが決定的になったとき、もともとのファンの間では、井上雄彦の幻の読切であり、今回の映画に設定が一部流用された『ピアス』の存在が話題になった。映画をきっかけに原作を深掘りするなかで出会った読者も多そうだが、それでは、同じく読切作品で「流川楓」が主人公に据えられた『楓パープル』という作品があったことはご存じだろうか。

 もっとも、こちらは『SLAM DUNK』から派生した作品ではなく、むしろその原型になったともいえるバスケットボール漫画であり、そもそも井上雄彦のデビュー作(手塚賞入選の)でもある。初出は1988年の「週刊少年ジャンプ」で、井上の初期作品集『カメレオンジェイル』の新装版に収録されている(プレミアム価格がついているケースもあるが、新装版はまだ手に入りやすい)。

 現在の井上雄彦作品とは大きくテイストが違っており、名作『SLAM DUNK』と同じ熱量で楽しむのは難しいだろう。しかし短編として満足感はあり、さまざまなポイントで『SLAM DUNK』との共通点を見出すことができる。『SLAM DUNK』自体、序盤から中盤にかけて大きく変化していったが、その助走段階の作品として読めば、井上雄彦という作家自身の成長も感じられて興味深いものがある。

 これから読む方のため細かなネタバレは控えるが、本作の主人公として登場する流川楓は、「クールなイケメンでバスケの高いスキルと情熱を持っている」という点で、設定としてはほぼ出来上がっている。他方で、高校2年生でバスケ部の部長を務めており、番長で元バスケ部の「赤木」に目をつけられる……という物語になっている。

 ここに後の三井寿につながる要素があり、赤木の中学時代からの友人&バスケ部元キャプテンという立場で「小暮」も登場。『SLAM DUNK』に直結する要素が散在していて面白い。ちなみに、流川が赤木に目をつけられるきっかけになった女子生徒の名前は「あや」だ。

 派手なタイトルとは裏腹に、基礎の大切さを描いた『SLAM DUNK』。最初からスター選手である流川が主人公のままだったら、まったく違った作品になっただろう。素人・桜木花道を主人公に据えたのは慧眼という他なく、連載に向けてあらゆる面でブラッシュアップされたことがわかる。同じく『カメレオンジェイル』に収録されている、桜木や流川のような“生意気なルーキー”が活躍する読み切り作品『JORDANみてーに』も含め、初期作品を読むことで『SLAM DUNK』がさらに熱く感じられるかもしれない。

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