連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2023年1月のベスト国内ミステリ小説

橋本輝幸の一冊:新川帆立『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』(集英社)

 第19回『このミステリーがすごい!』大賞の『元彼の遺言状』が発表即ベストセラー&ドラマ化に至った新鋭による“リーガルSF”短編集。収録の六編は特殊設定ミステリ、サスペンス、スリラーを兼ね備え、著者の専門性と関心の幅広さが両方味わえる。必ずヒネリがあるし、ルールをかいくぐる遊戯性と、架空の法律を介して現実の問題を浮き彫りにする社会派性が一粒で二度美味しい。なんとも贅沢な作品集だ。

 毒のある話やピカレスク小説が多めだったので、欲を言えば「健全な反逆」の成功譚ももう少し読みたかった!

藤田香織の一冊:伏尾美紀『数学の女王』(講談社)

 広義のミステリー小説で熱い人気を獲得している女性警察官は少なくないが、本書の主人公・沢村依理子は、その次世代筆頭に成り得るキャラクターだ。大学院で博士号を習得した後、三十歳になる年に北海道県警の警察官になった「異分子」の沢村が、今回捜査にあたるのは国立の理化学系学院大学の爆破事件。急遽これまた異例の辞令を受けた沢村は、捜査経験が乏しいにもかかわらず捜査一課の班長を命じられ——。沢村の過去もキャリアも事件の真相も、「今」の物語を読んでいる感が凄まじい。乱歩賞受賞作「北緯43度のコールドケース」シリーズ。

杉江松恋の一冊:京極夏彦『書楼弔堂 待宵』(集英社)

 明治を舞台にした連作小説の第三弾で、東京市のどこかにあるという謎の書店が舞台となる。そこに行くと、謎の店主が来客のための一冊を選んで売ってくれるのである。どの話にも実在の著名人が出てくるのだが、徳富蘇峰を皮切りに岡本綺堂や宮武外骨など華々しい面子が登場する。彼らにどんな本が薦められるのか、というのが謎といえば謎なのである。それに加えて今回は全話を貫く趣向もあって、最終話で明かされる事実でちょっと驚かされるのである。ビブリオ・ミステリーの範疇に入れていい作品であり、読んでいる最中はひたすらおもしろい。

 時代ものと連作短篇集に人気が集まるという、いつもとは少し変わった月になりました。2023年のミステリー界はどうなるのか、予想がちょっと難しくなりましたね。それもまたよし。来月のこの欄をお楽しみに。

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