アニメ化決定の『戦隊大失格』、注目すべきは“擬態”できる主人公? なりすますことで深まる問いとアニメの可能性

 「週刊少年マガジン」にて大人気連載中『戦隊大失格』のTVアニメ化が決定した。作者である春場ねぎ先生にとっては、前作『五等分の花嫁』に続き2作品目のアニメ化となる。今回は、アニメ化を控えますます注目を集めている『戦隊大失格』の魅力、そして本作がアニメにもたらす新たな可能性について探っていきたい。

『戦隊大失格』の主人公はまるでバイキンマン!?

 アンパンマンはやりすぎではないのかーーそんな正義と悪を問うコラムが少し前にネットを賑わせた。毎回アンパンマンに徹底的にやられるバイキンマン......というある種テンプレート化したストーリーを引き合いに、最終的に悪役であるバイキンマンに向けられる加害の残酷さ、過激さを問題視する意見だ。『戦隊大失格』では主人公サイドが、まさにこのコラムにおけるバイキンマンにあたる。

 地球侵攻を企てる怪人たちの下っ端として戦う“戦闘員D”、これが本作の主人公だ。そしてそんな怪人たちから地球と市民を守るべく立ち上がったのが竜神戦隊ドラゴンキーパー。彼らは毎週末、地球の平和と存続をかけて悪しき怪人たちに立ち向かう。だが、この戦いの結末は、毎週決まってドラゴンキーパーたちが怪人たちを完膚なきまでに叩きのめし、完全なる勝利をおさめるというもの。この勧善懲悪な展開、そして怪人たちがどこか遠くへ散っていく様子はまさにアンパンマンとバイキンマンを彷彿とさせる。

 だが、実はこの戦いは全て茶番。怪人とドラゴンキーパーたちの戦いは遥か昔に決着がついており、人類を脅かす怪人の幹部たちはすでに粛清されている。残された怪人たちは、ドラゴンキーパーとの間に休戦協定を締結。その結果、怪人たちは奴隷のように扱われ、挙句毎週“ヒーロー側の勝利が約束された決戦”という茶番に付き合っている。

正義とは、悪とは。一歩先の問いに踏み込む

 アンパンマンと違って戦い自体が茶番なのだから、『戦隊大失格』の怪人たちの方がバイキンマンよりも遥かにひどい扱いである。怪人たちはそんな過酷な環境にに立ち向かうこともなく、ドラゴンキーパーに屈する日々を送るが、唯一反撃の狼煙を上げるのが主人公の戦闘員D。

 世界征服という野望と自由な暮らし。怪人の矜持と人権を求めて、戦闘員Dは正義のヒーローに立ち向かうという前代未聞の戦いへと身を投じていく。そんな斬新かつ、従来の戦隊モノへの皮肉を感じる設定が本作の面白さであるが、それ以上に注目すべきは主人公である戦闘員Dが持つ“擬態”能力だ。

 戦闘員Dは人やモノなどに自分の体の形を変える“擬態”を得意とする怪人。この能力によって、彼は一般市民はもちろん憎きドラゴンキーパーたちに化けることもできる。彼は組織内部から崩壊させようと企み、擬態を利用してドラゴンキーパー側に潜入するが、単なる潜入ではなく姿形を自由自在の変化させ敵側に“染まる”からこそ、外からは見えない真理に気付く。

 例えば、ドラゴンキーパー側に属する戦隊員たちは、正義をぶち壊そうとする者、正義を正そうとする者、正義によって支配しようとする者……まるで戦隊モノがレッド、グリーン、ブルーなどの多様な色で分かれているように正義のカラー(形)は決して一色だけではない。正義を全うする人の数だけ正義が存在する。このように、戦闘員Dの擬態によって、正義とは?悪とは?という普遍的な問いからもう一歩踏み込んだ物語が展開されていくところが本作の魅力だ。

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