【11月発売BLコミックレビュー】『さよならのモーメント』『そんなに言うなら抱いてやる』ーー相手の幸せを願う人々の恋物語

 毎月、筆者が「出会えてよかった」と胸に刺さったBL作品を紹介している「BLコミックレビュー」。今回は2022年11月に発売された作品のなかから2作品をピックアップした。

『さよならのモーメント』
(仁嶋中道/&.Emo comics/海王社)

 こんなにもあたたかく優しい三角関係があっただろうか――。そう思わずにいられなかった作品が『さよならのモーメント』だ。幼なじみを事故で亡くした鼓春哉の前に、その幼なじみ・大狼亮輔の幽霊が体に入ってきたという高校生・犬飼司があらわれる。この奇妙な出会いと再会から始まる、3人の共同生活が描かれた作品だ。

 幼なじみの春哉と亮輔は、互いに恋心を抱いているにもかかわらず想いを告げることなく、死別している。そのふたりをつなぐのが司だ。家庭には居場所がなく友人にも裏切られ自ら命を絶とうとしていた司の体を亮輔が一時的に乗っ取り、春哉のもとへと連れて行ったことで、死に別れたふたりに話す機会をつくることとなる。

 本作の優しさの根源は「幸せになってほしい」という願いを、3人それぞれが持っているところにある。たとえば司は、自分に居場所を作ってくれた春哉に惹かれている。しかし共に過ごすなかで、亮輔も大切な存在となっていた。そのため自分に芽生えた想いは胸に秘め、3人での共同生活を続けていく決意を固めている。一方でそんな司の存在は亮輔の死を引きずっていた春哉にとって、止まっていた自分の時計の針を少しずつ進め始めるきっかけにもなっていた。その変化を、春哉を想う亮輔が見逃すわけもなく……。この一方通行の矢印が1つもない、あまりにも優しい三角関係が、切なさをかきたてるのだ。

 3人の大切な人を思いやる優しさの行く末を、ぜひ見届けてほしい。

『そんなに言うなら抱いてやる2』
(にやま/バンブーコミックス/竹書房)

 BLアワード2021で2位にランクインした『そんなに言うなら抱いてやる』。微笑み1つで多くの男を落としてきた遊び人・裏川忍と、自他ともに認めるルックスと爽やかさで多くの女性を虜にしている会社のプリンス・表屋ヒカルの、ちょっと大人な恋の駆け引きと見せかけた思春期さながらの純愛物語だ。その続編である2巻では、1巻で想いが通じ合ったふたりのお付き合いの日々が描かれている。

 本シリーズの最大の魅力は、キャラクターが持つギャップだろう。ワンナイトを愛する罪な男の忍は、昼間の会社ではその素顔を隠している。ヒカルもまた、誰もが憧れるスマートな美男子の一面とは裏腹に、実は恋に恋する恋愛初心者のような純情さを持った人物だ。1巻はそんな意外な一面を目の当たりにし、「相手を落とす」という目的を忘れて自分の本質をさらけ出してしまっているふたりのやりとりが、ただただ甘かった。

 そして続編では、この糖度がさらに増す。自分しか知らないパートナーの秘密に喜びを感じてしまうヒカル。自分への想いが募りまくって暴走してしまうヒカルの姿に、さらに心がかき乱され嬉しくなってしまう忍。恋愛の高揚感を具現化しているかのようなふたりの様子に、読み手の心はギュンギュンと鳴りやまないこと必至だ。

 また続編では、ふたりが守ってきた秘密がバレてしまいかねない事態が巻き起こる。この波乱を治め、大切なパートナーを守ろうともがく忍とヒカルの姿に、ふたりの愛が深く確固たるものへと進化していることを感じさせられるのだ。

 BLの王道要素がぎゅうぎゅうに詰まっている、「そんなに言うなら抱いてやる」シリーズ。濡れ場はあるものの、BL入門の1冊としておすすめしたい。

あたたかな読後感を満喫して

 今回紹介した2作品には、どうすれば大切な人を幸せにできるのか、もがきながらも行動するキャラクターたちが登場した。

 恋愛に限らず人と人との関係においては、私欲や損得が勝ってしまうことも少なくないと思う。だからこそ、自分が傷つく恐怖を飛び越えてしまう「相手を幸せにしたい」という原動力に、あたたかく深い愛情を感じずにはいられなかった。

 大切な人の幸せを願うキャラクターたちの優しさに満ち満ちた、2作品だ。胸があたたまる、心地よい読後感を堪能できるだろう。

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