2022年の小川哲は『地図と拳』だけではないーー空前絶後のミステリー『君のクイズ』の圧倒的おもしろさ

 ミステリーの謎というのは無数にあるが、本書のようなものは空前絶後だろう。極めて独創的な謎である。さらに、なぜ絆が毀誉褒貶の対象になることが明らかな、「ゼロ文字解答」を実行したのかという疑問もある。この二点を解明しようとする玲央の調査は、実にオーソドックスだ。番組のファイナルの流れや、絆の人間性を検証することで、真実に迫っていくのである。ここで描かれる、競技クイズでの駆け引きや、問題への取り組み方が、やたらと面白い。知識があるのは当たり前。そのうえで、こんな思考を展開するのか。小説を読む楽しみのひとつは、自分の知らない世界を見聞するところにある。それが本書には、たっぷりと詰まっているのだ。

 その一方で、競技クイズに熱中している、玲央の人生も見えてくる。しだいにクイズが好きになり、競技クイズにのめり込むようになる。何かを真剣に考えていても、いつのまにか思考がクイズに向かってしまう。玲央の一人称によって書かれたストーリーによって、ひとつのことに熱中する若者の姿が、鮮やかに浮かび上がってくるのだ。

 そして検証の果てに玲央が導き出した真実。まさか、ここまで合理的な解答だとは思わなかった。もちろん絆が、「ゼロ文字解答」をした理由も判明する。これが玲央と絆の人間性の違いを際立たせ、物語を見事なラストへと着地させるのである。唯一無二のクイズ・ミステリー。本書を読んだことで、クイズ番組を見る目が変わりそうだ。

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