地方書店の現状  成人向け雑誌の低迷、仕入れはAmazon、電子書籍の普及、人口減少……町の本屋は四重苦から脱却できるのか

 

人口1万4000人の町に唯一残った本屋

 書店の閉店が加速度的に進んでいる。アルメディアの調査データによれば、2000年に2万1495店あった書店数は、2020年には1万1024まで減少している。20年で1万店以上が消滅したのだから、恐るべき減少数と言うしかない。出版不況の影響も無視できないだろうが、WEBで手軽に本を買い求められるようになったことや、電子書籍の普及も背景にあると思われる。また、日本全体の少子化や人口減少の影響を受けていることも間違いない。

 とりわけ、地方の書店は一層厳しい状況におかれている。筆者の出身である秋田県羽後町は、人口がかつて2万人を超えていたが、現在は1万4000人を割ってしまい、著しい過疎化が進む。最盛期にはチェーン店を筆頭に3店の書店があったが、今では1店が営業を続けるだけだ。現存する唯一の書店、『ミケーネ』の阿部久夫店長に、書店の現状を伺った。

「1993年に25坪で書店を始めましたが、3年後には売り上げが1億円に達し、いい仕事を始めたと思いました。しかし、今では完全に赤字です。主な原因は、Amazonなどのインターネット販売の拡大、電子書籍の普及、人口の減少です。このことは書店だけでなく取次業界にも大打撃を与えています」

「ミケーネ」の阿部久夫店長。併設される「学習塾ガロア」では塾長も務め、奥さんと息子さんで店を営む。「書店をやるのは妻の夢で、私は学習塾をやりたかった。2人の想いを形にしたのがこの店なのです」 写真=背尾文哉
「ミケーネ」の店名はミケーネ文明に由来する。「ドイツの少年シュリーマンが、子供の頃に読んだトロイの木馬の本をもとに発掘したところ、ミケーネとトロイアが発見された。一冊の本が少年を大きく変えたという本を読んで、書店をやるなら店名をミケーネにしようと思った」と阿部店長。写真=背尾文哉

 出版不況が叫ばれていた2016年、取次の大手の太洋社が倒産した。現存する取次とて、経営体力が十分かというと、決してそうではないだろう。本の流通マージンは出版社によっても異なるが、書店の場合は約23%である。しかし、その仕組みも変わってきたと阿部店長が言う。

 「取次からの仕入れ方にも様々なルートがあります。通常のルートに在庫がない場合、同じ取次のWEB在庫から仕入れていますが、その場合は取次が手数料をとるようになった。取次にも在庫がない本は、Amazonを見れば大抵、ある。顧客の依頼で急ぐときは、Amazonから買って渡しているんですよ。ですから、書店の原価率は年々高くなっています」

 阿部店長は「うちはAmazonから毎日のように本を買っている上顧客です」と笑ったが、様々な要因から、個人経営の書店が成り立たなくなるのは時間の問題といえる。

 余談だが、羽後町の隣には、菅義偉元首相の出身地の秋ノ宮を抱える湯沢市がある。湯沢市は秋田県南の玄関口を担う都市だが、湯沢駅前はシャッター通りと化している。かつて、この地域にも書店はたくさんあったと阿部店長は言う。

 「湯沢市の旧市街には、書店がついに1軒だけしかなくなりました。かつては地元資本の書店がたくさんあったんです。川井書店、おびきゅう、飯塚書店、松本書店、半田書店……今では、すべて閉店してしまいました。私の娘は東京の三鷹にいますが、状況を聞いたら、三鷹のような大きな駅前でも書店が次々につぶれていると言っていました」

 もはや、個人の経営努力ではどうにもできないほど、地方の書店を取り巻く状況は悪化の一途を辿っている。

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