【アメリカの最新ブック事情】第3回 What is zine?

What is zine?

 2021年にNetflixで配信開始された「モキシー〜私たちのムーブメント〜」という映画がある。

[モキシー〜私たちのムーブメント〜予告編]

 16歳の主人公・ヴィヴィアンは母親と2人暮らし。学校で起きている性差別や不平等にモヤモヤしつつも、下を向いてやり過ごす日々。ある日自宅で、母親が自分と同じ年の頃に「家父長制をぶっこわす」べく作った、フェミニズムの冊子を見つける。また、間違いに対して臆することなく声を上げる転校生・ルーシーと出会い、大きな影響を受ける。ヴィヴィアンは匿名で、学校にはびこる性差別反対を訴えた冊子「モキシー」を作り、活動を始めるが――。

 その冊子は「zine(ジン)」と呼ばれるもの。映画で写真や文字を切り貼りしたヴィヴィアンは、近所のコピー屋に原稿を持ちこみ印刷し、学校の女子トイレに置いて頒布する。

 zineは映画で描かれているように、個人や小さなグループによって作られる印刷物で、多くの場合が小部数。身近なコピー機を用いることも少なくない。言うならば、自分の表現、やる気、紙と印刷があれば制作可能だ。

 そう書きつつ、形は上記にとどまらないのが面白さでもある。zineを取り扱う書店やイベントに足を運ぶと、内容、印刷、造本は多岐に渡り、画集、コミック、写真集など、アート色の強いものも見かける。つまり、作り手がそれを「zine」と呼べばzineなのだ。

サンフランシスコ、ミッション地区にある雑貨屋「ニードルズ&ペンズ(Needles & Pens)」。おしゃれな洋服やアクセサリーと共に、アート系のzineがずらっと並ぶ。

サンフランシスコ・ベイ・エリアと zine カルチャー

 ここで、私が住むサインフランシスコ・ベイ・エリアとzineとの関わりについて紹介したい。

 zineの起源は古く、1930年代にSFファンの間で作られた冊子に遡るが、サンフランシスコ・ベイ・エリアで存在感を見せるようになったのは1950年代以降。保守化する体制に対し、詩や小説などの形で異議を唱えた「ビート運動」が活発化し、有効な出版物として機能した。また1960年代には、サンフランシスコで自主制作のコミック(インディ・コミック)の文化が花開き、さらに広がっていった歴史がある。

 「zineフェス」と呼ばれるイベントが1年を通じてアメリカ各地で開催されているが、この地域でも、今年21周年を迎えた「サンフランシスコ・ジンフェスト(San Francisco Zine Fest)」ほか、LGBTQ+をテーマにした「ベイ・エリア・クィア・ジン・フェスト(Bay Area Queer Zine Fest)」などが活況だ。

 映画の中で、かつてこのエリアに住んでいたルーシーが、zineは「ベイ・エリアにありえない程たくさん存在している」と述べるシーンがある。その通り、サンフランシスコ・ベイ・エリアの独立系書店には必ずと言っていいほど「zine」コーナーが存在し、地元クリエイターの作品や、店の色に合ったものがセレクトされている。

 初めて書店で、とんでもなく先鋭的かつ主張が強い、作り手の熱量が溢れんばかりのzineの数々を手に取った時、頭を殴られるような衝撃を受けたものだ。バラエティの豊富さ、商業出版とは異なる自由さよ。

サンフランシスコの有名書店「シティ・ライツ・ブックストア(City Lights Bookstore)」の2階、ポエトリー・ルームの一角にもzineコーナー(椅子の左横の棚)。ちなみにここは前述の「ビート運動」の中心になった場所。

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