歌人・岡本真帆が語る、ネットと短歌のつながり「解釈はその人のもので、自由に面白がってもらえたら」
「ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし」「平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ」など、すぐさま情景が思い浮かぶ短歌をSNSなどで発表し、注目を集める歌人、岡本真帆。第一歌集『水上バス浅草行き』(ナナロク社)を3月に刊行するとさらに反響を呼び、現在までに3刷8000部と、歌集としては異例の好調な売れ行きを見せている。
平易な言葉で日常を切り取る岡本氏の短歌は、これまで短歌に触れてこなかった層にも届いているようだ。インターネットを中心にはじまった歌人としての経歴や、作歌のこだわりを本人に聞いた。(小沼理)
バズった短歌が大喜利に発展
――岡本さんはいつ短歌をはじめたのでしょう?
岡本:社会人3年目の時です。当時はコピーライター・プランナーとして働いていて、仕事でも短い言葉を扱っていたのですが、現代短歌は広告の言葉に比べるとずっと自由に感じました。
影響を受けたのは笹井宏之さんの『えーえんとくちから』(ちくま文庫)と木下龍也さんの『つむじ風、ここにあります』(書肆侃侃房)。笹井さんは簡単な言葉の奥にいろんな彩りが見える短歌が魔法のようだし、木下さんは何気ない生活の一瞬を鋭く切り取る力がみなぎっている。「短歌」と一言で言ってもこんなにバリエーションがあるんだと知り、私も作ってみたいと思いました。
本格的に作りはじめたのは2015年です。ネットで募集した短歌を掲載するフリーペーパー「うたらば」や、毎日オンライン歌会をしているサイト「うたの日」に投稿していましたね。一時期は『ダ・ヴィンチ』で連載している穂村弘さんの「短歌ください」にも投稿していたんですけど、もっと早くフィードバックがほしくて。月刊誌だと送ってから待つ時間がもどかしくて、すぐ反応がわかるネットが中心になっていきました。
――それでTwitterでも短歌を投稿するようになったんですね。特に「ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし」という短歌は話題を呼びました。
岡本:もともとうたらばの「傘」というお題に合わせて作ったものです。なんとなくセリフの短歌を作りたいと思っていて、自分の玄関を見たら折りたたみ傘が4本、ビニール傘が8本あったので、「ネタにするか」と(笑)。すぐにイメージが湧いて、定型に合わせるために下の句は少し調整したんですけど、するっとできました。
うたらばに出した当初から、他の作品と比べると好評だったんです。でも、一番大きな反響は2018年にツイートした時。「毎月歌壇」という、短歌を評と一緒に掲載するネットプリントの企画があったのですが、歌人の谷川電話さんがこの歌を選んでくれました。その評の画像を今のアカウントでツイートしたところ、大きく広がっていきました。朝起きたら何千いいねもついていて、「あれ、なんだこれ?」ってなりましたね。
――その後は「ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし」以降の下の句を自由に考える大喜利にも発展していきます。
岡本:「未読メールが〜万件あるし」みたいに未読の件数を詠む人、定型をガン無視してずぼら情報を140字みっちり入れてくる人などがいて面白かったですね(笑)。インターネットミームになったのがうれしくて、私も「凍ったいくら風呂で解かすし」で参戦したんですよ。そうしたら一番バズってしまって……気持ちよかったですね。知らない人から「作者を冒涜している」って怒られたこともあります。まさか作者本人だと思わなかったみたいで。「ずぼらにしてはお風呂がきれいすぎる」とお叱りのリプライもきましたが、きれいなのは写真に写っているところだけなんですよ。
――短歌ファンの枠を飛び越えて広がったことがうかがえます。
岡本:傘の歌はきっと評がわかりやすくて、どう読んだらいいかが伝わったのだと思います。いくらのほうは「これ57577だ!」といったリプライがきたことも。それだけ短歌を意識していない人にも見てもらっているんだと感じましたね。