お嬢と従者のドタバタ逃避行! 『ヒロイン不在の悪役令嬢は婚約破棄してワンコ系従者と逃亡する』の面白さに魅せられて
「ヒロイン不在の悪役令嬢は婚約破棄してワンコ系従者と逃亡する」
過不足なく、簡潔にすべてを説明してくれている。なんて親切なタイトルなんだと、そう思った。
一応あらすじを説明すると、主人公は、大好きな小説の悪役令嬢·ヴィアラに転生。ヒロインを説得して死刑エンドを回避、女好きで傍若無人な婚約者である王子との結婚破棄のために動く。そして、とある事件からヴィアラの従者であるシドとのドタバタ逃避行がはじまるのである。
悪役令嬢ものは小説から漫画界隈でも流行しており、いまでは多くの作品があるジャンルだ。天邪鬼な筆者は、周りでわーっと流行るとどこか冷めてしまう節があり、それでも興味本位で悪役令嬢ものをパラパラと読んでみたこともあったが、これまではなんとなく没頭することはなかった。
「悪役令嬢もの」の大まかなパターンはこうだ。
・何らかの事情で異世界へ転生
・転生した先は恋愛ゲームや小説の世界
・転生先ではヒロインではなく悪役令嬢として、バッドエンドを回避するために奮闘する
こうした基本を踏まえつつ、その型からどう外していくか。そこが原作者の個性が出てきて面白いところなのだろう。この作品はいい意味で型を打ち破り、軽快なストーリーでテンポよく読ませに来るので、気づいたら単話で追ってしまっていたのだ。これまでの悪役令嬢ものとひと味違う、筆者が感じるこの作品の魅力をお伝えしたい。
まず気になるのは、タイトル通りに「ヒロイン」が不在なことだ。悪役令嬢ものでは、健気なヒロインに対していじわるをしていた悪役令嬢、という対比でみせる展開が多い。そして、ヒロインと悪役令嬢、相手男性(ゲームでは攻略相手や新たなキャラ)との三角関係や周りの女性陣とのドロドロもよくある展開で、これもひとつの楽しみなポイントかもしれない。しかし、本作ではそもそもヒロインは自由に生きており、物語の舞台になるはずの「学園」に入学してすらいない。悪役令嬢であるヴィアラを含めた女性陣は、それぞれに強く美しく、ちょうどいい関係性が築けており、女性のドロドロした展開が苦手な人にとっては、読みやすい作品だろう。
次に目を引くのが、登場人物のキャラがそれぞれに立っているところだ。悪役令嬢ものだと、ヒロインと相手男性以外はわりと印象が薄いという対比が強いように感じるが、この作品ではモブが全然モブではない。ヴィアラの兄イーサンは裏社会を牛耳るマフィアっぽい名門の公爵家の当主でもあるが、妹大好きなヘタレで、どこか憎めない存在。婚約者であった王子も女好きで偉そうではあるが、その清々しいほどのクズっぷりが、むしろストーリーに華を咲かせてくれているので良しとしよう。