『タコピーの原罪』はなぜヒットしたのか? 短くも完成度の高い作品が伝えたメッセージ

 上・下巻でまとめる短さを筆頭に『タコピー』は読者に届ける手段において戦略的な作品だった。では、タイザン5は『タコピー』で何を伝えようとしたのか?

 物語は当初、しずかを中心に進んでいくが、彼女の物語が極限まで行き着くと時間は2022年に飛び、高校生の雲母坂まりなの物語に切り替わる。実はタコピーはまりなと先に出会っており、彼女のためにしずかを殺そうと2016年の過去にタイムスリップしていたことが明らかになる。

 同時に明らかになるのが、しずかとまりなが似た者同士だったということ。しずかもまりなも母親との関係に問題を抱えており、それが全てのトラブルの元凶となっている。彼女たちの対話が上手くいかず、物語が常に最悪の方向に向かうのは、相手の話を最後まで聞かずに自分の意見を一方的に押し付けてしまうからだ。

 劇中ではしずかたちが相手の話を途中で遮り、自分の話をはじめる場面が繰り返し描かれる。彼女たちがこういう対話しかできないのは母親に同じことをされてきたからだが、その状況を表現する際に、相手の発した台詞の吹き出しを覆い隠すように吹き出しがかぶさる様子が繰り返し描かれているのが、漫画表現として面白いポイントだ。

 フィクションの台詞は基本的に交互に発するもので、お互いの台詞が被ることはないのだが、『タコピー』ではそれが何度も繰り返さる。一見地味な描写の応酬だが、このやりとりが積み重なっていくことで『タコピー』の殺伐としたトーンは醸成されている。

 虐待やイジメにおける暴力描写や極限状態で見せる子どもたちの表情が印象に残る作品だが、作品の本質は「コミュニケーションの困難」で、その克服こそが最大のテーマだ。

 母親との問題は改善されないものの、最終的にしずかとまりなの間には対話が成立するようになる。ハッピー道具ではしずかを幸せにできなかったタコピーは時間を巻き戻すためにみんなの記憶から消滅するが、タコピーの存在は「おはなし」となって二人の心を繋ぐ。

 「私たちが過酷な現実を生き伸びるために必要なものは物語だった」というのが『タコピー』の出した答えだった。だからこそ多くの読者に届いたのだ。

関連記事