水野英子、庄司陽子、木原敏江……少女漫画家にとっての「家」とは? 創作現場に見る、日本の少女漫画史

 ここまでの言及から、『少女漫画家 「家」の履歴書』の価値は、単に漫画家たちがどのような「家」に住んでいたかを学べるのみに留まらないことがおわかりかと思う。本書はむしろ、いくつものインタビューから作品の土壌としての、もしくは作家の大成の証としての「家」の姿を浮き彫りにする――いわば「家」という切り口からの漫画論や、漫画史としての側面も大きな、貴重な一冊となりえているのである。

 本書の取材・構成を担当した吉田大助さんは、最後に、レジェンドたちが漫画家として名を馳せ、家を建てるまでの過程を「自立と連帯」という言葉で説明する。そして、互いの面識があるなしにかかわらずに生まれ、多くの少女たちにとっての夢を見る土壌となった「自立と連帯」の歴史の解像度を高めていく作業は、本書に触れた読者に委ねられているのだ、と。

 こうしてバトンは先人たちから、本書の読者たちに受け渡された。そのひとりである私は、まず何をすべきだろうか。とりあえず、この原稿もそろそろカタがつきそうだし、久しぶりに『日出処の天子』を読み返そうか、それとも『SWAN -白鳥-』にしようか、いやいや、『エロイカより愛をこめて』だろう……などと、贅沢に頭を悩ませているところだ。

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