『アクセル・ワールド』最新刊が週間ラノベランキング1位に 『ソードアート・オンライン』作者による本格メタバース小説

 “メタバース”という言葉が取りざたされて、ネット上に作られた仮想空間でビジネスを行ったり、レジャーをして過ごしたりといった、様々なことが出来るようになった社会への期待が膨らんでいる。そうした社会を表す例として、ライトノベルを原作に、アニメやゲームになって世界的にヒットしている「ソードアート・オンライン」(SAO)シリーズがよく挙げられるが、作者の川原礫にはより強く、現実空間と仮想空間とが重なり合ったイメージを見せてくれるシリーズがある。それが「アクセル・ワールド」だ。

 脳とコンピュータネットの直結が実現した2040年代の社会では、視覚にグラフィックを重ね合わせて様々なガイドを表示したり、意識をネットの中にダイブさせて仮想世界を自在に動き回れたりするようになっていた。中学生のハルユキも、小太りでいじめられっ子という現実から逃げるようにして、仮想世界に入り浸ってゲームばかりしていたが、そのハルユキの腕前を見込んで、接触してきたのが〈黒雪姫〉とあだ名される学校でも一番の美少女だったから驚いた。

 ある目的を持っていた〈黒雪姫〉は、仮想空間で戦うゲーム〈ブレイン・バースト〉にハルユキをバーストリンカーとして引っ張り込み、「ネガ・ネビュラス」というレギオン(軍団)を立ち上げ、ゲーム世界で勢力を得ていた他のレギオンに挑んでいく。その舞台が現実の東京に重ね合わさって存在する仮想空間で、東京タワーや皇居といった施設が仮想空間で重要な役割を担っている設定もあって、観光に行ってここが“聖地”なんだといった想像をしてみたくなる。

 物語自体は、現実世界ではスタイリッシュとは正反対の風貌を持ったハルユキが、〈ブレイン・バースト〉では銀色の甲冑に身を包んだシルバー・クロウとなってスピーディーなバトルを繰り広げ、強敵を退けていく姿がカッコ良くて憧れを誘う。おまけに、〈黒雪姫〉という美少女から頼られ、ほかにも次々とバーストリンカーの少女たちから慕われる展開も心を浮き立たせる。現実では難しくても、ネットの世界なら何者かになれるかもしれない可能性を抱かせてくれる。

 それは、オンラインゲームが舞台となった「SAO」でも感じさせられる期待感だが、ハルユキという容姿端麗とはいえない主人公で描いている分、取るに足らない自分をなぞらえた時に強く励まされる気がする。「SAO」のキリトのような支持が得られにくいからか、メタバースのビジョンをくっきりと見せてくれる作品でありながら、「アクセル・ワールド」が1期しかアニメ化されず、「SAO」のように繰り返しアニメ化されてはいないのが残念だ。

 何しろアニメ版「アクセル・ワールド」では、ハルユキを『進撃の巨人』のエレン役で知られる人気声優の梶裕貴、〈黒雪姫〉を『ウマ娘 プリティーダービー』のサクラバクシンオー役が話題の三澤紗千香が演じている。そんな2人が仲間を得て勢力を広げ、強敵と向き合うようになるTVアニメの続きを見たいのだが、企画が動いているという話は聞こえて来ない。ただ、小説の方は「SAO」シリーズに負けじと巻を重ねる中で、状況が激変をしてますます奥深さを増している。

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