時代ミステリーでありながら歴史小説? 直木賞受賞作『黒牢城』のハイブリッドな面白さ
そして第四章「落日孤影」では、前章のラストで生まれた謎を村重が追究する。この謎の真相も面白いのだが、それ以上に読みどころが多い話だ。いままでの事件の真相の、さらに奥にあった真実。官兵衛の深謀遠慮。これを踏まえながら、ついには逃亡へと至る村重の心理が露わになる。
ここで感心するのは本書が、時代ミステリー(歴史ミステリーという表記をよく見かけるが、ジャンルの慣例に従いこのように書く)であると同時に、歴史小説になっていることだ。もちろん四つの事件は、作者の創作である。フィクションの部分は大きい。しかし事件に影響を与えられながら、史実は歪められていない。ふたつのジャンルが鮮やかに融合しているのである。ここも本書の大きな読みどころだ。
時代ミステリー自体は昔から存在するが、近年になり、このようにミステリーを史実と密接に絡めた作品が増えてきた。本書だけでなく、伊吹亜門の『刀と傘 明治京洛推理帖』や、羽生飛鳥の『蝶として死す 平家物語推理抄』などのタイトルを挙げることができる。一群の作品によって、時代ミステリーと歴史小説は、新たな地平に踏み出そうとしているのだ。どちらのジャンルも好きなので、この流れは大歓迎。次々と生まれるであろうハイブリッド作品を、楽しみにしているのである。