書評家が選ぶ「2021年ライトノベル・ベスト10」タニグチリウイチ編 1位は壮大なSFラブストーリー!

 第6位は八目迷『ミモザの告白』。高校生の紙木咲馬にとって幼なじみの槻ノ木汐は文武両道の美少年として女子に大人気だったが、ある日を境に女子の制服を着て高校に通うようになる。理解が進んだといっても、多感な少年少女には追いつかないところがあるカミングアウト。それがもたらす喧騒を通して自分が自分であることの意味を問う。第7位は『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の暁佳奈が新たに始めた『春夏秋冬代行者』。和風の世界を舞台に、四季を司る者たちが惹かれ合ったり争ったりする様を描いて、「このライトノベルがすごい!2022」の文庫部門第2位、総合新作部門第1位を獲得した。

 第8位に推したい『VIVY:prototype』は、『Re:ゼロから始める異世界生活』の長月達平と、脚本家の梅原英司が共同で原案・シリーズ構成を手がけたテレビアニメ『Vivy-Fluorite Eys's Song-』の原案小説。未来に起こるAIによる人類殺戮を防ぐべく、歌姫として作られたAIロボットが歴史改変に挑むストーリーがスリリングだった。AIが登場する作品では、第9位に入れる菊石まれほ『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』から始まるシリーズも面白かった。人間の脳に張りめぐらされたデバイスに潜り記憶を探る女性捜査官と、超イケメンのアンドロイド補助官によるバディが挑む難事件の数々から、AIの限界と可能性が見えてくる。

 第10位には『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』『NHKにようこそ!』でひきこもり世代のカリスマと呼ばれた滝本竜彦が、デビューから20周年目に放つ新作『異世界ナンパ~無職ひきこもりのオレがスキルを駆使して猫人間や深宇宙ドラゴンに声をかけてみました~』を入れておこう。35歳のコミュ障男が召喚された異世界でナンパを繰り返すうちに、会話スキルを高め自己肯定感を得て音楽の才能を芽生えさせる。気鬱に沈みがちな人の心を刺激し、立ち上がらせて外に向かわせるメンタルヘルス効果抜群のラノベだ。

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