ラノベ=異能・異世界はもう古い? ライトノベルでラブコメ人気がブーストした理由

 そうした状況が近年になって一変した。この背景には、「小説家になろう」などの小説投稿サイト発のノベルズ(B6判や四六版で刊行される書籍)に異世界転生ものや、ゲーム世界が舞台となったVRMMOものが集まったことがありそうだ。

 伏瀬『転生したらスライムだった件』や丸山くがね『オーバーロード』、香月美夜『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』などがヒットしたことで、似たカテゴリーの作品が相次いでノベルズに投入されていった。その結果、異世界転生ファンタジーや異能バトルは、そちらで隆盛を誇るようになった。

 馬場翁『蜘蛛ですが、なにか?』、森田季節『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになっていました』、白石定規『魔女の旅々』、Y.A『八男って、それはないでしょう』と、ノベルズからアニメ化される作品も続々と出てきたことで、傾向にさらに拍車がかかっている。「このラノ2021」でも書籍部門は1位の珪素『異修羅』ほか異能バトルや異世界ファンタジー、SFが並ぶ。

 一方で、書籍よりは価格的に手に取りやすい文庫版のライトノベルジャンルでは、ティーン層が好むラブコメが増えていく。『チラムネ』『友崎くん』『おさまけ』が人気となって、作家も版元もいっせいに後を追い始めた。そんな見方もできそうだ。

 もちろん、ラブコメと一口にいっても中身は多彩だ。天乃聖樹『クラスの大嫌いな女子と結婚することになった。』のような新婚もの、『ろしでれ』や猿渡かざみ『塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い』のような異性の意外な一面に惹かれるタイプのものなど、関係性を工夫して、新しい嗜好を生み出そうとしている。その中から、『俺ガイル』のような覇権を奪うラブコメが生まれてこないとも限らない。

 とはいえ、エンターテインメントの世界で人気は水ものだ。アニメ化された二語十『探偵はもう、死んでいる。』や、「このラノ2021」で2位の竹町『スパイ教室』が話題となる中で、今後探偵ものやミステリが増えていかないとも限らない。『呪術廻戦』や『チェンソーマン』がヒットしたマンガの雰囲気が伝わって、伝奇バトルが盛り上がるようなこともあるだろう。まずは「このラノ2022」で文庫部門にどのような作品が並ぶかに注目したいところだ。

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