科学は誰にでも扱える 『Dr.STONE』が伝え続けるメッセージ

 『Dr.STONE』22巻は二部構成となっており、前半では21巻から続く千空たちとアメリカチームの攻防戦が描かれる。

 アメリカチームの大将・Dr.ゼノを拘束し、石化現象の爆心地となった南米にたどり着いた千空たち。電池切れとなった石化装置の山を持ち去った後、ブラジルのアラシャにメデューサの砦という拠点を作り、石化装置復活を目論む。一方、元アメリカ軍特殊部隊隊長のスタンリー率いる敵軍はゼノ奪還のため、千空たちにゲリラ戦を仕掛ける。

 武力において勝ち目のない千空たちは石化装置を再起動することで、スタンリーたちもろとも石化する自爆作戦を計画。全員が石化した後、遠くに避難していた仲間が解除液を用いて仲間を復活させることで、スタンリーたちを倒そうと考えていた。敵軍による制圧が先か、千空たちが石化装置を蘇らせて発動させるのが先か? 激しいデッドヒートが進む中、科学王国の仲間たちは敵軍の凶弾に倒れていく。

 最終的に両陣営の戦いは、アメリカのコーンシティで千空たちと連絡をとりあっていた時計技師のジュエルが石化装置に必要なダイヤ電池を作ることに成功し、石化装置を発動させたことで千空たちが勝利する。だが、石化の元凶となった月から流れるホワイマンの音声を用いたため、石化光線は地球全土に降り注ぎ、再び全人類が石化してしまう。

 その後、メデューサ砦に作られた石化解除液が自動的に降り注ぐ装置の下に逃げ込んだスイカだけが石化が解除される。一人目覚めたスイカは千空が遺したメモを頼りに解除液を作ることになる。このエピソードはわずか3話分だが、本誌で読んでいた時は全く先が読めず、もしかしてここからまた「数千年後」となるのではないかと不安だった。何より地球上に一人ぼっちとなったスイカの孤独感が伝わってきて読んでいて苦しかった。敵軍の攻撃で、一人また一人と戦線離脱していく前半部も鬼気迫る緊張感があって恐ろしかったが、一人ぼっちになったスイカの物語にはまた別の恐ろしさがあった。

 真逆の展開で読者を翻弄する『Dr.STONE』の話し運びは毎回、実に巧みだ。石化装置を用いた攻防は宝島編でも描かれており、今回の戦いもその延長線上にある展開だと最初は思った。しかし、一気に全世界に光が降り注ぎ、全人類石化となるのだから、スケールがデカすぎる。「その日―― 世界中の人間は全て 石になった」という第1話冒頭を彷彿とさせるナレーションが被さるため、物語自体は冒頭の反復だと言える。

 おそらく作者はどこかのタイミングでこれをやろうと狙っていたのだろう。しかし全人類石化を起こすのが敵ではなく千空たちだというのがこの漫画らしい。誰でも使えて再現可能だというのは『Dr.STONE』が一貫して描いている科学の美点である。それはホワイマンが人類に対して用いた石化装置に対しても同じことが言える。どんな凶悪な兵器でも使い方次第で毒にも薬にもなり得ることを、激しいバトルの中で、カッコよく描いて見せることがが、本作の少年漫画としての矜持である。

 科学の知識を持たないスイカは、千空が遺したメモをヒントに鳥の糞や貝殻を使って(解除液の元となる)硝酸の畑を作り、失敗しても何度も何度も試行錯誤を繰り返す。そして7年後。ついに千空の石化解除に成功する。

 目を覚ました千空が成長したスイカと再会する場面は、とてもロマンチックで、美少女に成長したスイカがこれ以上なくかわいく描かれた渾身のカットだ。一人ぼっちで苦闘してきた7年間のスイカの孤独と、そこからの開放が凝縮された名シーンである。

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