『刀剣乱舞』のファンも沼にハマる? “刀”をめぐる文学を集めた『刀剣怪談アンソロジー』の魅力を解説

 この神話上のエピソードに影響を受けて作られたと思われる本書所収の説話は、刀がモチーフとなる怪談の先駆的存在だ。宿代の代わりとして置いて行かれた刀が、赤い蛇になって主人の元へ戻ってきた(「赤い蛇――『遠野物語拾遺』より一四二、一四三、一四四話」)。大蛇が住んでいると村人たちの間で噂になっている場所を武士が訪れると、以前に酔っ払って落とした愛刀が見つかった(「淡路屋敷の宝刀――『佐久口碑伝説集・北佐久編』より」)という具合に、刀剣は蛇の化身となり、大事に扱われないと機嫌を損ねたのか正体を現しがちなのである。

 こうした昔からお馴染みの設定である「禍々しいものが宿った刀」をどう料理するかが、後続の作家にとって腕の見せ所となる。名剣が人々の死の連鎖を招く中国の逸話をおどろおどろしく語るはずが、〈無茶苦茶だ。まったく非論理的です〉〈その表現は、男女差別ですね〉と横からツッコミが入りまくり、どんどんコミカルな話になっていく皆川博子「花の眉間尺」。日本刀の切先に映る女性の霊をめぐり、男たちが諍いを起こす加門七海「女切り」など、近現代の作家たちによる趣向を凝らした作品の競演を堪能できるのはアンソロジーだからこそ。

 アンソロジーの魅力はそれだけではない。作品の並び順も注目ポイントとなる。本書の冒頭に収められた、海の底に沈む草薙の剣の幻影に翻弄される恋人たちの姿を描く、赤江瀑「草薙剣は沈んだ」。最後を飾る、川底に沈む妖刀の謎と美男美女のはかない恋愛が怪談の中で交差する泉鏡花「妖剣紀聞」。面白さの性質は違うものの似た要素を持つ2つの作品を、なぜ最初と最後に置いているのか。感覚的なものなのか。それとも、「草薙剣は沈んだ」をはじめとする収録作の内容を踏まえた上で「妖剣紀聞」を読むことに意義がある、そう思っての戦略的な並びなのか。

 そこで編者の真意を確かめるべく最初から読み直してみるのだった……なんて、並び順の謎を推理して楽しんでいると沼から抜け出せないまま10月になり、『文豪怪談ライバルズ!』の2巻目「鬼」を手に取っていることだろう。鬼といえば怪談以外で思い浮かぶのが、鬼滅の刃に仮面ライダー響鬼に鬼ギャルに……オススメしたら別ジャンルからアンソロジーの沼にはまる人が、また続出しそうだ。

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