白間美瑠の写真集『REBORN』はなぜ深い作品になった? 写真家アンディ・チャオと挑んだ本作への"意気込み”から考察

 8月31日の卒業公演をもって、NMB48を卒業した白間美瑠。2010年のお披露目以降、約11年間グループに在籍し、水着グラビアにも積極的に挑戦。2018年、韓国のオーディション番組とコラボして開催された「PRODUCE 48」では、惜しくもデビューのチャンスを逃すも、アイドルスキルにさらなる磨きをかけ、圧倒的な存在感を放っていた。昨年、同期の吉田朱里が卒業してからは、最後の1期生としてグループを牽引。普段の親しみやすいキャラクターとステージに立った瞬間に弾けるスター性によるギャップで、男女問わず、多くのファンを魅了する唯一無二のアイドルとして、卒業までを全力で駆け抜けた。

 5月末に予定されていた卒業コンサートが緊急事態宣言延長のため延期になり、まだ確かな卒業日程が定まっていない頃、筆者は、本サイトのインタビューにて、白間美瑠に卒業記念写真集『REBORN』(ヨシモトブックス)の話を聞かせてもらっていた(【白間美瑠が語る、11年間のアイドル人生の集大成『REBORN』「これがファンのみなさんに対する感謝の表し方」】)。卒業コンサート、そして卒業公演を無事に迎えられたことにホッとした今、改めて写真集を開いてみると、そこにはアイドルから次のステージに向かおうとしている表現者の顔があった。

写真家アンディ・チャオと作り上げた文字通りの力作

 舞台は霧がかる屋久島。スーッと鼻を通る心地よい空気。湿った土と濡れた葉が漂わせる独特な香り。最初の見開きに広がる森の風景写真が、静かで幻想的な大自然の厳かさをしっかりと伝えてくれている。

 本作では、白間美瑠本人の強い希望により、写真家のアンディ・チャオがカメラマンを担当している。もとより写真に言葉はないが、アンディ・チャオの撮る写真は、より無口な印象がある。語るより感じろと言わんばかりの、しんとした呼吸。そこから見出す華やかさと力強さ。特に冒頭の、深い森のなかで赤いドレスを着て踊っているカットから和室で撮られた白黒写真のランジェリーカット、アスファルトの上で色っぽくデニムのつなぎを着ているカットまでの流れは迫力がある。張り詰めた空気。卒業から始まる新しい人生に、浮き足立ってばかりはいられない。しかし、やはり解放感もある。和室シーンの最後、腕で隠された口元は笑っているのだろうか?そう思いページをめくると、続くデニムのシーンでは思いっきり笑顔を見せている。11年間のアイドル人生の苦楽は安易に想像できないが、この冒頭部分には、11年分の、さらにこれからの人生に向けてのさまざまな感情が入り乱れているように見えた。

 アンディさんってめっちゃ体力あるんですよね。どっちが先に疲れるかの戦いでした(笑)。私、そういう熱い感じ、凄く好きなんです。「負けへんぞ!」って、撮影を追うごとにどんどん気合が入りました。
「白間美瑠インタビュー【白間美瑠が語る、11年間のアイドル人生の集大成『REBORN』」より

 インタビューで語っていたこの言葉が印象的だった。確かに屋外での撮影は、体力勝負な面もある。天候や気温の変化、日の沈み。その瞬間瞬間でしか撮れない一枚があるため、ときに粘り、ときに勢いのままやり切らなければならないからだ。とはいえ、アイドルとカメラマンが互いに負けじと熱くなりながら、体力を余すことなく撮影している姿はどこか新鮮だ。白間美瑠の表情とアンディ・チャオの視点に浮かぶ、本作への意気込み。読めば読むほど、この二人だからこその力強い表現に満ちた写真集だと感じられた。

白間美瑠の覚悟が写る構成

 本作を読んでいちばん驚いたのは、その構成だ。そもそもアイドル写真集は、朝から夜にかけて旅を楽しむように、爽やかなカットからディープな演出へと流れていくことが多い。特に卒業記念写真集ともなると、加入当時の幼い姿から大人になるまでの成長過程を示唆した構成で組まれているのをよく見かける。それが本作では、前段でも触れた“赤いドレスを着た印象的なシーン”が冒頭にきているのだ。

 インタビューで「いちばん自分らしさを表現できた衣装」を聞いたとき、白間美瑠は「霧のかかった森のなかで踊っているところを撮ってもらって、妖精の気分でした。表現したかった“内側から滲み出る力強さ”を表せた気がします」と、この赤いドレスについて語っていた。アイドル写真集のはじまりは爽やかなカットであるべき、とまでは思わないものの、本作内のクライマックスとも言えるシーンが冒頭にくる構成には、とてもワクワクする。

 また、成長を見せること、未熟さをも愛してもらうことは、アイドルとしてひとつの魅力に繋がるが、インタビューで「ひとつもミスすることなくできたときは本当に気持ちがいいですし、頑張って良かったって、達成感や自信に繋がっていくんですよね。だから自分が納得いくまで練習しちゃう」と語っていたように、白間美瑠は、常に完璧なパフォーマンスを見せようと尽力している。本作でも、冒頭から惜しみなく、全力で今の自分らしさを見せようとしているのであれば、それもまた白間美瑠らしい構成だと思う。

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