いま大人たちは子どもたちのために何ができるのか? 文芸書ランキングに見る“居場所”への課題
物語は、〈ミライの学校〉の敷地だった場所から、ひとつの白骨死体が発見されるところから始まる。親元を離れた子どもたちが共同生活を送るその〈学校〉は、〈問答〉などの教育によって思考を言葉に変える力を養う教育を施していた。だが、いくら自主性と自立性を育むことが目的だからといって、幼い子どもたちだけで暮らすことが本当に正しいことなのか? 〈問答〉なんてものは、ただの洗脳じゃないのか……。と、〈ミライの学校は〉は、ある事件をきっかけにカルト集団として批判され、世間の注目を集めた存在だ。
そんな場所から出た、白骨死体。もしかして行方不明の孫なのでは……と依頼をもちこまれた弁護士の法子もまた、かつて〈ミライの学校〉で過ごしたことのある子どもの一人。小学校になじむことのできなかった法子は、夏のあいだだけ招かれるその場所で、はじめての友達と居場所を手に入れたのだった。そんな法子もまた、白骨死体の正体を、かつて強烈に結びついたことのある女友達なのではないかと疑っている。物語は、過去の回想と現在をいったりきたりしながら進み、白骨死体の正体、そして〈ミライの学校〉が子どもたちにもたらしたものをあかしていく。
自宅の自室と、カルトと言われてしまいかねない集団。その二つはまるで異なるけれど、学校という囲いから、耐えがたい孤独と苦痛から、逃れるための唯一の手段だったという意味では、翔太と法子はとてもよく似ている。子どもたちが健やかに大人になるため、いま大人である自分たちに何ができるのか、ということを両作はともに問いかけてくる。
ちなみに続く7位『黒牢城』は米澤穂信のデビュー20周年を記念するにふさわしい一作で、次期直木賞候補との呼び声も高い。荒木村重と黒田官兵衛を中心に描きだされる、戦国時代が舞台の本格ミステリ。こちらも注目されたい。