俳人で歌人でエッセイストで小説家 芥川賞候補・くどうれいんは何者か?

 最後に、今回芥川賞の候補作となった『氷柱の声』はどんな小説なのか紹介したい。

くどうれいん『氷柱の声』(講談社)

 2011年から2021年までの10年間を描いている今作の主人公は、岩手県出身の伊智花という女性である。2011年、高校2年生であった伊智花は、盛岡の自宅で東日本大震災を経験する。彼女がその後出会う人々は、福島や宮城など、場所は違えどそれぞれ被災しており、それぞれがその時から抱え始めた気持ちを、何気ない会話のきっかけから吐露していく。2021年に突入すると、コロナ禍により、伊智花を取り巻く環境にも変化が生じる。震災をきっかけに、周りから望まない役割を与えられてしまっていた人々が、10年越しに人生を自分のもとに取り戻していく過程を、綿密に描いた作品である。

 人が生きていることの機微を、丁寧にすくい上げるくどうれいんの作品は、一度読むとしばらく自己に密着する。喜怒哀楽のグラデーションを細かく描写した彼女の筆力からは、これからも目が離せない。

■ねむみえり
1992年生まれのフリーライター。本のほかに、演劇やお笑い、ラジオが好き。Twitter:@noserabbit_e

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