『ONE PIECE』コビーはなぜ強くなれたのか? “努力”を肯定する尾田栄一郎の作家性

強くなったコビーが登場した『ONE PIECE(99)』

 かつて弱者だったキャラクターが主人公に鼓舞され、強者となって再登場を果たす展開は読者の心をワクワクさせる。実はコビーは本作お馴染みの表紙連載で、血の滲む努力を重ねる姿も描かれていた。ルフィやエースなどと違い普通の人間であったコビー。そんな彼が本気で鍛錬を積み、海軍の英雄にまでなる姿は、作品にリアリティを生み出す。ただ裏を返せば、アルビダに媚び諂っていたコビーがここまで成長することは、本当にリアルなのだろうか。正直現実世界であれば、考えづらい事象である。しかし『ONE PIECE』はロマンと夢が溢れる少年漫画。ファンタジーと言えど、弱者の努力を最大限認め、その上でロマン一杯に描く。その絶妙なリアリティのラインが、コビーの成長からはよくわかるように感じる。

 『ONE PIECE』には数多くの過去回想が登場する。普段は明るいキャラクターでも、過去を知れば暗い部分も見え、より物語に深みが増す。実際に読者の中で長年語り継がれる名シーンの中では、現代では無く過去回想中のシーンも多い。そして本作の作者である尾田栄一郎も、多く登場する過去回想に関して「キャラクターを子供の頃からみなさんに知って貰う事で幼馴染になってもらえないかと考えたのが始まりです」と連載20周年公式コメントで話していた。一味メンバーもピンチの時や悩んでいる時に、過去の回想が描かる場合が多い。しかしルフィを除けば海軍の英雄となったコビーのみ、「過去」から始まっている存在なのだ。チビで贅肉ダルダルだった姿で初登場し、強くカッコいい姿で再登場する。そのため、成長後から過去を見るよりも、成長した姿を見た時の感動はひときわだった。45巻でコビーが再登場を果たした際は、本当の幼馴染に会ったような懐かしさに胸を震わせ、彼の努力に想いを馳せた読者も多いだろう。

 漫画に大切なリアリティを作品に持たせ、読者に驚きを与えたコビー。彼の存在は尾田栄一郎の、ファンタジーであっても現実に通ずる努力を大切にし、何よりも自身が生み出したキャラクターを愛する作家性がよく現れている。現在は海軍本部大佐の地位に留まるも、後には海軍大将になると高らかに宣言したコビー。「ルフィに憧れる海兵」であるだけに、今後の物語でも重要なキャラクターとなるのは間違い無いだろう。物語も佳境に差し迫っている『ONE PIECE』。今後の展開と共に、コビーの動向にも注目したい。

■青木圭介
エンタメ系フリーライター兼編集者。漫画・アニメジャンルのコラムや書評を中心に執筆しており、主にwebメディアで活動している。

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