『まとまらない言葉を生きる』『海辺の金魚』……書店員が選ぶ、“言葉について考える”新刊

 『まとまらない言葉を生きる』を読んだあと、手に取った『海辺の金魚』(ポプラ社)も、言葉を慎重に選び表現した小説だった。著者の小川紗良は役者や映画監督としても活躍しているが、本作は児童養護施設「星の子の家」を舞台にした、著者監督作品の原作だ。

 会話の描き方がとても素晴らしい。口から出た言葉が、相手にどう伝わり、どう影響を与えるのか。全体を俯瞰しながらも、とても親身に寄り添い、日常の子ども達の表現豊かな声を表現している。また登場人物のなかでも、施設で子ども達の世話をするタカ兄の存在が心に残った。心の奥深くで傷ついている子ども達に対して、時には厳しく諭しながら、彼は暖かく理屈抜きに包み込む。論理を尽くしているのではない、また誰もが感動できる印象的な内容を発しているわけではない。でも、彼しか言えない血の通った想いが、来年施設から出て行かなくてはいけない18歳の花との会話にも現れる。

「ごめん......ありがとう」
 「いや、ただ心配なんだよ」
 「心配?」
 「ちゃんとしようとすればするほど、崩れるのはあっという間だから」

「どんなにちゃんとしようったって、初めからうまくいくわけはないんだよ。血がつながってても、つながってなくても」
料理の済んだ台所を布巾で丁寧に拭きながら、タカ兄は続けた。
「日々を重ねるしかないんだ」

 子ども達の、大人や世の中にいくら言っても仕様がないと、やるせなく抱え込んでしまう虚しさと悲しみと怒り。それでもタカ兄は自身の行動と会話で繋ぐように、子どもの心を解きほぐし道筋を示していく。鮮やかな映像を思わせる場面描写もそうだが、同時に言葉の力と魔法を十二分に感じられる小説だった。

 この二つの本から届けられる声と鼓動にじっと耳を傾けて、著者からの願いと想いを見失わないようにできれば良いと思う。言葉を通じて相手や世の中に何ができるのか、今それぞれの姿勢が問われているのではないだろうか。そう考え行動するのに、決して早すぎることはないはずだ。

■山本亮
埼玉県出身。渋谷区大盛堂書店に勤務し、文芸書などを担当している。書店員歴は20年越え。1カ月に約20冊の書籍を読んでいる。マイブームは山田うどん、ぎょうざの満州の全メニュー制覇。

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