バイク×女子高生の物語、なぜ人気に? 『スーパーカブ』『ゆるキャン△』が描く“繋がり”

 バイクに乗れば速く走れる。バイクを使えば遠くまで行ける。バイクの魅力としてまず浮かぶ事柄だが、女子高生がホンダのスーパーカブに乗るようになるトネ・コーケン『スーパーカブ』や、ヤマハのスクーターで女子高生がキャンプに向かうあfろ『ゆるキャン△』を読むと、そうした便利さに加えて誰かとの、あるいは何かとの繋がりをもたらしてくれる存在として、バイクの魅力が漂ってくる。

 父親を亡くし母親に逃げられ、アパートで一人暮らしをしていた小熊という高校2年生の少女が、自転車で高校に向かう途中で1台の原付スクーターに追い抜かれたことで、バイクという存在に興味を抱く。「あの原付という物があれば何かが変わるのかな?」。そう思った小熊は、奨学金をやりくりして貯めたお金で激安のスーパーカブを購入する。『スーパーカブ』という物語の始まりだ。

 カブに乗るようになったことで通学は楽になった。昨日よりも過ごす時間は幸せになり、教室に向かう足取りも軽くなった。将来に何の展望も抱かず、アパートと学校の間を行き来していただけの小熊にとって決して小さくない変化だったが、そこにより劇的な変化がもたらされる。

 クラスでも目立つ美少女の礼子が小熊に話しかけてきた。礼子も郵政カブと呼ばれる赤いMD90に乗っていた。同じカブ乗りという繋がりから生まれた礼子との交流は、毎日をなんとなく送ってきた小熊にかつてない無茶をさせる。買ったばかりの時は、自転車の早漕ぎ程度のスピードしか出せなかった小熊が、体調不良で出発のバスに乗りそびれた修学旅行に改めて参加しようと、山梨県から県境を越えて神奈川県の鎌倉までカブで走って行く。

 礼子からも危ないと言われた長距離走行に小熊が挑んだのは、夏に郵政カブで富士山に登ろうとした礼子の挑戦を耳にして、刺激を受けていたからだろう。自分でも何か出来るのではという思い。それを礼子に見せたいという意欲。カブがもたらした礼子との繋がりから生まれた挑戦だと言える。鎌倉で、法律違反を承知で礼子をカブの後ろに乗せ、峠を走り回ったのも、礼子との繋がりを大事にしたかったから。真似はもちろん御法度だが、それまで人一倍、繋がりに希薄だった小熊だからこその歓喜の衝動だと理解したい。

 新海誠の長編アニメ映画『天気の子』でもそう言えば、ヒロインの陽菜を助けに行こうと警察署を逃げ出した帆高を後ろに乗せて、夏美のピンク色のカブが東京の街を疾走する場面が登場した。法律違反のオンパレードだったにも関わらず、ピンク色のカブはホンダによってレプリカが作られ販売された。ホンダが法律違反を許した訳ではない。協力・監修している『スーパーカブ』でも同様。現実の世界では法律は絶対遵守だ。それでも、法が損なわれる場面がある作品に協力しているのは、バイクが持っているどこかと、そして誰かと繋げてくれる可能性を知って欲しいという現れではないだろうか。

 『スーパーカブ』では、アレックス・モールトンという高価な自転車に乗っていた恵庭椎が仲間に加わり、礼子が新しく買ったハンターカブの後部に乗せ、小熊と3人で中山道から日本海を経て九州まで行くという、普通のバイクでも結構大変な長距離走行を敢行させた。これもバイクで繋がった関係が生んだ煌めきだ。

 誰かと繋がってしまったからには、もう前には戻れない。大学に進んで、バイク禁止の寮には入らず借家で一人住まいを始めた時、小熊はふっと寂しさに襲われる。自転車で高校に通っていた頃なら、いつものことだと流していたかもしれない感情に、小熊がおそわれたのもカブを介して得た繋がりがあったからだ。

 進んだ大学で小熊は、新たな出会いをする。節約研究会を名乗る怪しげなサークルを仕切る美女と、その下で動き回る少女の目的は? いつにも増してスリリングな展開を味わえる第7巻でも、やはりカブがひとつの結節点となって、小熊を新しい誰かと、そして新鮮な何かと繋げていく。先に来るのはどのような日々なのか? 『スーパーカブ』という 物語に繋ぎ止められた読者は、続く道をどこまでも付いていくしかない。

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