花田菜々子、新井見枝香、大塚真祐子……多様な発信で本を読者に届ける書店員たち

 本稿は、渋谷センター街の入り口にある大盛堂書店で文芸書担当として働く山本亮が、書店員としての日々を送る中で心に残った作品や、手にとった一冊から思考を巡らせるエッセイ連載である。(編集部)

 文章を書いて各媒体で発信している書店員は多い。例えば今年ドラマ化された『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年のこと』著者の花田菜々子や、いくつかのエッセイ本を刊行し、各地のストリップ劇場で踊り子としても活動している新井見枝香が挙げられる。店頭で本を販売する目線を保ちながら、自分なりの感想や考えを入れた書評やエッセイを読むたびに、色々勉強になるし触発される。

花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年のこと』
新井見枝香『本屋の新井』

 そういった書店員による多種多彩な文章のなかでも、特に注目しているのが三省堂書店に勤務する大塚真祐子だ。現在、雑誌や各ウェブサイトで執筆しているが、最初にこの人凄いなと思ったのが、2016年に「図書新聞」に掲載された写真家の植本一子の数年間の日常を綴ったエッセイ『かなわない』(タバブックス)の「危険な本」と題した書評だった。(http://toshoshimbun.jp/books_newspaper/week_description.php?shinbunno=3248&syosekino=9218)

 作家が一番叫びたい感情を的確にくみ取り捉える技術が素晴らしいのだ。審美眼の確かさと言っても良いだろう。

植本さんの文章はファインダーのようだ。ファインダーは「そこにある」ものをひとしく映す。可憐な花と踏みにじられた草が隣りあっていれば、それらは同じ枠の中、同じ重みで切りとられる。

 また感想と大塚のプライベートに関することの配分も絶妙だ。著者が描く簡単には収められない日常を尊重しながら、控え目だけど自らを絡めて独自の視点から魅力を代弁し、思わず本書を読みたくなる、バランス感覚が優れた文章を次々に綴っていく。

『かなわない』を読むときのわたしは母でも妻でもなく、欲望と狡さをかかえたひとりの人間だった。それは子どもを産んでからしばらく忘れていた個人の時間だった。句点でかろうじて閉じられる、植本さんの一日の記録を読み終えるたび、わたしはいつも夜にいるような気分になった。

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