異世界転生ガチャは思い通りにいかない! 『蜘蛛ですが、なにか?』の面白さとは?

 勇者や英雄になれるとは限らないから異世界転生は厄介だ。カルロ・ゼンの『幼女戦記』では中年男が赤ん坊の女の子にされて送り出された。伏瀬『転生したらスライムだった件』では最弱モンスターのスライムに転生して、文字通りに手も足も出ない状況からの再スタートを迫られた。

 馬場翁による『蜘蛛ですが、なにか?』(KADOKAWA)も転生ガチャのハズレ度合いでは負けていないが、超逆境からのスタートだからこそ味わえるスリリングな展開があって、小説からコミック、そしてアニメへと展開されて大人気になっている。

 異世界転生の女王と言うべきか。声優の悠木碧のことだ。『魔法少女まどか☆まぎか』の鹿目まどか役で知られる人気者だが、テレビや映画のアニメ版『幼女戦記』や、2021年1月からテレビ放送が始まった森田季節『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』のアニメ版で、共に主役の転生者を演じてさすがはトップ声優といった声を聞かせてくれている。

 わけても凄まじいのが、アニメ版『蜘蛛ですが、なにか?』の「私」こと蜘蛛子さんの弾けまくった演技ぶりだ。高校生たちが授業を受けている最中、異世界で繰り広げられていた勇者と魔王の戦いで放たれた魔法が、時空を超えて教室の中で炸裂した。生徒も教師も死亡して、魂が異なる世界で新しい命として生まれ変わった。そんなイントロダクションで始まる小説版『蜘蛛ですが、なにか?』の第1巻で、「私」という存在が教室での記憶を持ったまま、生まれたての蜘蛛として地下大迷宮で目覚め、共食いという状況に直面して大慌てで逃げ出す。

 いきなりクライマックス。必死で逃げながら、自分は転生したのではと考えていた「私」が、頭に響いた声に従ってスキルを獲得したことで、“俺TUEEE”の状態に変わったかというとレベルは最弱のまま。そこで落ち込まず「私」は逃げて戦って食べて成長して、戦って食べて逃げる繰り返しを続けながら、スキルを増やしレベルを上げて地下大迷宮でも強者の地龍と勝負するまで強くなっていく。

 そんな蜘蛛子の奮闘ぶりを、アニメ版でパワフルにテクニカルにソウルフルにエキサイティングに演じてのけたのが悠木碧だ。あまりの逆境ぶりに「ないわー」と脱力しながらも死ぬのはごめんと気を取り直し、迷宮の強者たちに立ち向かっていく蜘蛛子の饒舌な喋りを、まどかとも元OLという『スライム倒して300年』のアズサとも違った声音で表現している。アニメ版を見てから小説版を読むと、文字から悠木碧の、というより蜘蛛子の感情がこもった声が聞こえてくる。それほどまでに一体化している。