『MIX』はあだち充の集大成的作品か? 連載再開に感じた「高校野球」への特別な想い

 2020年、地球全土を襲った(そして、いまだに収束の見通しの立たない)新型コロナウイルスの猛威は、漫画の世界にも大きな影響を及ぼしている。販売や宣伝、営業の面でもさまざまな変化を余儀なくされたが、創作の面でも、あらためて「これからの(自分の)漫画のあり方」を考えさせられた漫画家や編集者は少なくないだろう。

 たとえば、2020年5月――『ゲッサン』にて『MIX』を連載していたあだち充は、以下のようなメッセージを発表した。

「MIX」連載休止のお知らせ

1970年代「ナイン」
80年代「タッチ」
90年代「H2」
2000年代「クロスゲーム」
10年代「MIX」…

どれもこれも胸張って「野球漫画!」とは言いづらい作品達ではありますが、ま、何にせよ漫画家あだち充にとって一番の幸運は 

この日本には甲子園(高校野球)があったという事なのです。

そのありがたい野球が、そしてほぼ全てのスポーツが日常から消えてしまいました。ライブ、中継を楽しめないぼく達も残念ですが 選手の無念さを思うと 本当にやり切れません。

人が集まる事を許さないこのやっかいな敵とどうつき合って行くのか?

社会のルールは どこまで変わってしまうのか? 先の見えないこの状況で 大歓声、大観衆の野球漫画を描き続けていいのか? 等々…

アナログ作画作業も含めて じたばた考える時間をいただければと思っております。

あだち充 2020.5

 このメッセージが発表されたのち、『MIX』はしばらくのあいだ休載することになったが(『ゲッサン』6月号から10月号まで休載)、個人的には、あだちの甲子園(高校野球)に対する想いはここまで強いものだったのかと、あらためて驚かされた。

 無論、複数のアシスタントを仕事場に集めての作業が困難になったということもあるだろう。だが、それ以前に、このメッセージから伝わってくるのは、漫画を描くうえで昔から「恩」のある高校野球の選手たちがいま涙を吞んでいる――その「現実」から目を逸らして、多くの人々の胸を打つ娯楽作品など描けるものかという、ベテラン作家の真摯な態度である。

 もしかしたら、このあだちの「決断」に対して、「プロとしてはいかがなものか」と思った向きもおられるかもしれない。たしかに、現実の世界でのスポーツが楽しめないなら、せめて漫画の世界だけでも……と考える読者もいただろう。あるいは、毎号、あだちの漫画が載っているのを楽しみにして『ゲッサン』を購入しているファンもいただろう。しかし、それでも、私としては、昨年の5月にあだちが下したこの決断は、「ものを作る人間」の態度としては、正しいものだったと思っている。

 さて、その『MIX』のおよそ1年ぶりとなる新刊(17巻)が、先ごろ発売された(収録されているのは、休載前に描かれた3話分と、連載再開後の4話分)。