『静かなるドン』新鮮組の総長・近藤静也の“名言”はなぜ響く? 綺麗事のない正論を検証

暴力の抑止力はより強力な暴力…悲しいかな 国家間でもそれで平和が保たれています 

 秋野と路上で深刻な会話をしていた静也に、愚連隊のような男3人が近づき、「金を貸してくれ」と近づく。警護していた部下が車から駆けつけ制すが、「ヤクザなんか怖くねえ」と殴られる。

 いよいよやり返そうとする部下に静也は「愚連隊だがヤクザじゃない。痛めつけりゃ恥も外聞もなく警察に駆け込む。捕まるのはお前だよ」と止める。調子に乗る愚連隊は「新暴対法でガンジガラメだ。拳銃一丁も持ち歩けねぇだろうがバーカ」となじった。

 すると静也は指を鉄砲の形にして、「持ってるぜ」と叫ぶ。そしてバーンと叫ぶと、3人の被っていた帽子が次々に飛ぶ。そこには銃弾の穴が。ビルにスナイパーが待機し、撃ち抜いたのだ。

『静かなるドン』(101巻)

 慌てて逃げ帰る3人。静也は秋野に「俺の身を守るために常にスナイパーがついている」「ボディーガードに武器はもたせられませんので」と話す。そして「暴力の抑止力はより強力な暴力…悲しいかな 国家間でもそれで平和が保たれています」と説明した。

 発言を聞いた秋野は「あなた達がいなくなればああいう人達が増えるでしょうね」と呟く。すると静也は「それでも俺たちはいなくなったほうがいい」と説いた。(101巻)

 「暴力にはより強力な暴力で対抗する」という論理は少々過激にも思えるものだが、力で対抗しなければ収まらないこともある。また、世界平和には軍事力が欠かせないことも、事実と言わざるを得ない。静也の論理も、一理あるものだろう。

愛を拒むお前はただの臆病者だ 人間である限りいつかは愛する者との別離が待っている みんなそれに耐えて生きてんだよ!!

 世界を牛耳る皇帝、リチャード・ドレイク5世。静也はこの男が諸悪の根源であることを突き止め、単身ヨーロッパに渡り決着をつけようと、居城へと乗り込む。そして勝負をつけるつもりでドレイクと対峙すると、ドレイクの妻・マーガレットが登場する。

 人工授精で妊娠し、愛を訴えるマーガレットに対し、それを受け入れようとせず、「愛はくだらない」「叡智の目には愛は陳腐なものには曇る」と話すリチャード・ドレイク5世。静也にも「秋野の愛に惑わされている」と指摘する。

 そんな様子を見た静也は「自分も妻を愛し始めているのがわからねえのかよ。とんだ叡智の目だぜ」「節穴の目を持つ大間抜け野郎だぜ」と切る。そして「愛を拒むお前はただの臆病者だ 人間である限りいつかは愛する者との別離が待っている みんなそれに耐えて生きてんだよ!!」と叫んだ。

 さらに「これからは妻や子を失うことに怯えるただの人間として生きていきやがれ」とキレる静也にドレイクは涙を流し、負けを認めた。(108巻)

 どんなに愛し合う夫妻でも、最終的には別れることになる。人はそんな宿命を持ちながら、愛し合い生きているのだ。そんな別れを恐れて愛を受け入れようとしないドレイクに対するド正論すぎる言葉のパンチだった。

綺麗事のない本質をついた名言

 社会の表と裏を克明に描いた『静かなるドン』。表裏を知った近藤静也の言葉は、「綺麗事」がなく、本質をついている。我々が生きる上でも、大いに参考になりそうだ。

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