「FEEL YOUNG」編集部に訊く、漫画を通して伝えたい想い 「理想を描くことで現実世界にも何かしらの影響が返ってくるはず」

 1990年の創刊以降、安野モヨコや岡崎京子、おかざき真里、ヤマシタトモコといった名だたる漫画家たちの作品を世に送り出す祥伝社の漫画雑誌「FEEL YOUNG(フィール・ヤング/以下、フィーヤン)」。宝島社「このマンガがすごい! 2021」オンナ編では、和山やま『女の園の星』が第1位、安野モヨコ『後ハッピーマニア』が第2位を獲得し、フィーヤンの作品が上位を独占。同ムック内の「このマンガ雑誌がすごい!」でも、フィーヤンが1位に輝いた。女性の葛藤や生きづらさを描き、大きな共感を呼んでいる作品も多い。同誌の制作を手がける編集プロダクション、株式会社シュークリームの編集部長・梶川恵氏と、「FEEL YOUNG」担当デスク・神成明音氏に、作品づくりの裏側や漫画を通して今を生きる女性に伝えたいメッセージなどを伺った。(苫とり子)

編集者を目指したきっかけと鮮烈な出会い

――梶川さんと神成さんが漫画の編集者を目指したきっかけを教えてください。

梶川:私は雪国の新潟出身なので冬の天候が悪く、よく学校をサボっちゃうタイプだったんです(笑)。だからどんなに天気が悪くても、仕事に向かえるくらい好きなことを仕事にしようと思って、漫画に携わる編集者という道を選びました。

神成:私は2人姉妹の妹で、元々は4つ上の姉が「りぼん」(集英社)、私が「なかよし」(講談社)をそれぞれ親に買ってもらっていたんです。姉が小5で「りぼん」を卒業した後は、私がどちらの雑誌も買ってもらえるようになったんですが、その時に姉はなぜ漫画を読むことをやめられたんだろう?と強く思ったんですよね。それほど自分が漫画を読むのをやめる姿が想像できず、そのまま大人になりました(笑)。中学生くらいまでは漫画家が夢でしたが、「コマ割りができない」という段階で挫折して、漫画編集者を志すようになりました。

――学生時代はどんな漫画を読まれていましたか?

梶川:小学校時代に「ぴょんぴょん」(小学館)からはじまって「りぼん」&「なかよし」、「マーガレット」(集英社)&「少女コミック」(小学館)、「花とゆめ」&「LaLa」(白泉社)、「週刊少年ジャンプ」(集英社)&「週刊少年サンデー」(小学館)、「Wings」(新書館)……など、少女・少年漫画からちょっと背伸びした作品までジャンル問わず幅広く読んでいました。中学校くらいに入ってBL誌も。その時代の雑誌の作家さんたちには本当に申し訳ないのですが、悪質な子供だったので近くの書店さんでよく立ち読みしていたんです……。定期購読は1年ごとくらいに変わってました。

神成:私は「なかよし」だとCLAMP先生、早稲田ちえ先生、海野つなみ先生、「りぼん」では谷川史子先生、高須賀由枝先生の作品が特に好きでした。高校では「別冊マーガレット」(集英社)を愛読して、河原和音先生の作品にどハマりしていましたね。他には、小学生の頃に母から渡された佐々木倫子先生の『動物のお医者さん』と山岸凉子先生の『日出処の天子』も今なお大好きな作品です! 中学以降は「週刊少年ジャンプ」も読んでいました。

――その中でも編集者として今でも影響を受けている作品はありますか?

神成:私は読者時代から今に至るまでフィーヤンを愛してやまないんですが、そのきっかけとなったのが魚喃キリコ先生とジョージ朝倉先生です。高2の時にお二人の漫画に出会って「この世にこんなおしゃれな漫画があるなんて!」と衝撃を受けたんですよね。そこからおしゃれな漫画読みたさに大判のコミックスを買うようになり、「FEEL YOUNGという雑誌がよく大判のコミックスを出しているんだな」ということにも気付いて。フィーヤンを読むことで出会えたヤマシタトモコ先生や安野モヨコ先生の漫画も、今の自分の好みや指針を作ってくださっています。

梶川:みんなきっかけは似ているんですよね。私も神成と同じように高2で西村しのぶ先生の作品と衝撃的な出会いを果たし、おしゃれでスマートな漫画が読みたいと思って大判のコミックを読み始めたんです。現在の職場にも繋がる方向性を示してくださったという点で、西村先生は命の恩人だなと思っています。高校では安野モヨコ先生の『ハッピーマニア』が流行っていて、毎月フィーヤンでの連載を興奮しながら読んでました。

創刊時からテーマは“フェミニズム”

――お二人がおっしゃるようにフィーヤン作品はどれもおしゃれで、なおかつ女性の葛藤や生きづらさに寄り添う作品を生み出しています。創刊当初から、雑誌としての方向性は定まっていたのでしょうか?

梶川:シュークリームは編集プロダクションで、祥伝社から丸ごとフィーヤンの編集を委託されているのですが、弊社の社長からは創刊当初の時点で“フェミニズム”をテーマに掲げていたと聞いています。

――読者はやはり働き盛りの20〜30代の女性が多いですか?

神成:全体的に読者の年齢が少しずつ上がっている気はしますね。以前は20〜30代前半の女性をターゲットにしていたのですが、離れずに読んでくださっている読者さんも少なくなく、今は30代後半〜40代の方々も厚い購読層になってくださっています。

――どのような感想をいただくことが多いですか?

梶川:「私のことのようだ」という声を届けてくださる方が多い印象です。たとえば、私が担当しているヤマシタトモコ先生の『違国日記』には、自分が抱えている悩みや置かれている環境と重ね、共感したという声や「こんな風に生きていく道を示してくれるなんて」といった感想をいただくこともありますね。

ヤマシタトモコ『違国日記』1巻

――私自身もフィーヤンで連載されている作品を読むと心がすっと楽になりますし、なぜこんなに私の気持ちをわかってくれるんだろう?と思うほど現実世界とリンクすることが多いです。普段から頻繁に取材なども行っているのでしょうか。

須藤佑実『夢の端々』上下巻

神成:お仕事ものなどは取材をして参考にさせていただくことは多々ありますが、心情的な描写はやはり作家さんの中にテーマがなければ物語にならないんですよね。例えば(2020年)10月に発売された『夢の端々』は作者の須藤佑実先生が「婦人公論」の過去100年の主要トピックをまとめた『百年の女 - 『婦人公論』が見た大正、昭和、平成』(酒井順子/中央公論新社)を読んで、新連載の打ち合わせで「こういうことがやりたい」とお話ししてくださったんです。

酒井順子『百年の女』中央公論新社

――『百年の女』から着想を得ていたんですね。

神成:この分厚い本の中には、日本女性がこの100年をいかに生きてきたかが書かれていて、女性の権利は過去の女性たちが頑張って戦って獲得してきたものなのだと改めて実感できます。創刊当初からかなり長い間、「女性向けの雑誌」を男性だけで作り、「男性が女性を啓蒙する」目的で記事が書かれていますからね……。帯に書かれたキャッチフレーズが凄いんですよ。“「婦人と言えども人である」からの道のり”。ゾッとしますね……。

 『夢の端々』では須藤先生の構成力も素晴らしく、現代から始まり徐々に時代を遡っていくことで、女性ふたりの人生を青春期から最期まで描いてくださいました。「普通の女性」を描くことで時代性が自然と反映されたので、その時々の女性が普遍的に抱えていた問題を通し、現代の女性が獲得した権利や未だ抱える課題が作品を通して見えてくればいいなと思います。

「あのニュースどう思いました?」世間話から生まれるアイデア

――普段から作家さんと時事ネタを踏まえながら、議論を重ねていらっしゃるんでしょうか?

梶川:私は作家さんの考えを掘って潜っていくのが好きなので、まずは作家さんの中にあるテーマや描きたいことを伺って、それを第一の読者として紐解いていきます。物語のキャラクターがこの社会でどうやって生きてるのか想像し合う感じです。

神成:私はよく打ち合わせで、「あのニュースどう思いました?」みたいな世間話として女性の権利に関わる政治的なトピックについて作家さんとお話をしていますね。具体的な時事ネタが漫画に反映されるとも限らないんですが、世間の動きに対して日々互いが思ったことを共有するようにしています。

――そういった社会問題や女性の権利にも切り込んだ作品を世に送り出す上で、表現や描き方で気をつけていることや心がけていることはありますか?

梶川:フィーヤンには女性の編集者しかいないんですが、同じ性別でも育ってきた環境や摂取してきたエンタメもそれぞれ違うじゃないですか。でもみんな会社ではかなり喋りますし、LINEやSlackも「社会のこと」「オタ活」といったトピック毎にグループやチャンネルが細かく分かれているので、普段から考え方や知見を共有する機会が多いんです。

――そこでまずは編集者同士で価値観のすり合わせを行っているんですね。

梶川:漫画の表現で気をつけるべきことは意識的に共有していますね。特に、読者に対して差別や加害、抑圧といったことを無自覚に「仕方ないこと」という印象を植え付けないように気をつけています。社会問題に切り込む上で男女差別が残る会社組織を描いたり、ハラスメントの加害者を登場させたりすることは避けられませんが、それを受けた側が耐えたり受け入れてしまったりするような描写を入れると、ただ読み手に「社会はこういうものだ」という現実を押し付けるだけになってしまう。だからもし理不尽を解決しない描き方をする場合は、読み手が「理不尽だな」とはっきりわかるように描いたほうが良いと思っています。

神成:もちろん実際に男女差別やハラスメントの被害に遭っている方もいらっしゃるので、綺麗事だけを描く必要はないと思うんです。ただ、私たちは“仕方がないこと”として納得して欲しくない。だから編集者や作家さん自身がそのことに無自覚でいらっしゃったら、先の展開について確認を取るようにしています。世の中に発表される前に、私たちが第一の読者として気づいたことは何でもお伝えするというスタンスです。

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