山内マリコ『あのこは貴族』が描く、女性たちのリアルな生き様 原作と映画それぞれの魅力

映画『あのこは貴族』

 2016年、集英社文庫から刊行された山内マリコによる人気小説『あのこは貴族』。東京という街を舞台に、生まれも育ちも全く違う、2人の女性の人生をリアルに描いた作品だ。2021年2月26日には映画の公開が決定している。初のオリジナル長編作品『グッド・ストライプス』で新藤兼人賞金賞を受賞した岨手由貴子がメガホンを取った。

 小説の中に、そしてスクリーンの中に、きっと「私たち」がいる。まるで自分の姿がそこにあるかのようにとことん追求されたリアリティ、作品に触れたあとに感じる不思議な爽快感。映画の見どころ、そして原作・映画ともに鮮やかに描かれる女性たちの生き様を紐解いていく。

「箱入り娘」と「上京組」 交錯する2人の人生

 物語の主人公は2人。東京生まれ・東京育ちの絵に描いたような箱入り娘「榛原華子」と、猛勉強の末地方から東京の名門大学に進学した「時岡美紀」だ。相反する道を歩んできた2人の人生が1人の男をめぐり交錯した時、物語は急速に加速する。

 第1章「東京(とりわけその中心の、とある階層)」では、箱入り娘として何不自由なく成長し、「結婚=幸せ」と信じて疑わない華子の人生が描かれる。結婚を考えていた恋人にフラれ「婚活」を始めた華子は、紆余曲折の末に良家の生まれでハンサム、弁護士の青木幸一郎と出合う。誰もが羨む結婚相手に巡り会い、結婚生活を始めるが……。

 第2章「外部(ある地方都市と女子の運命)」では、地方から名門大学に進学するも学費が払えず大学を中退し、東京で働く美紀の姿が描かれる。学費のために働いていた夜の世界で、大学の同級生だった青木幸一郎と再会し、ずるずると男女の関係を続けていく美紀。

 美紀の大学の同級生であり、華子のお見合い相手である青木幸一郎という男の存在が、交わるはずのなかった別世界の2人、華子と美紀の人生を交錯させていく。

 榛原華子役には若手実力派女優、門脇麦。時岡美紀役にはモデルやデザイナーなど、マルチな活躍を見せる水原希子。そして物語のキーパーソンとも言える青木幸一郎は、高良健吾が演じる。20代後半から30代に多くの女性たちが抱える息苦しさや悩み、生き辛さ、恋愛。様々な感情の機微を見事に演じている。 

ファッション、セリフ、立ち振る舞い……研究され尽くしたリアルな世界に注目

 上流階級を描くにあたり、監督と制作チームは綿密な取材を重ねたという。この徹底的に追求されたリアリティある演出を、ぜひその目で見て欲しい。

 映画で注目すべきは、まず登場人物のファッションだ。「自分が裕福だという意識もなく育ってきた本物のお嬢さま」である華子は、上品ではあるがどこか垢抜けない雰囲気を醸し出す。華やかなハイブランドではなく、祖母や母親が買ってくるような、上質だが流行ではない服を着る。自己主張の無い華子というキャラクターをしっかりと表現している。

 かと思えば、高級ホテルのラウンジに全く怖気付かず、コーヒーではなく紅茶を頼むセンスを持ち、移動は全てタクシーという育ちの良さもしっかりと描かれている。見ているだけで上流階級になったような豪華なロケ地に注目だ。

 上流階級の社会だけでなく、地方都市出身の美紀を描く演出にもしっかりとリアリティが詰め込まれている。高校の同窓会で帰省した美紀を待っているのは、車を買い替えることが趣味の弟、「女なんだから」と口を挟む父、甲斐甲斐しく家事をこなす母。人の姿が少ない商店街に、狭い世界にこもったままのかつての同級生たち。地方出身者なら思わず自分を重ねてしまうであろうリアルな地方都市の世界が描かれている。

 原作者・山内マリコには『ここは退屈迎えに来て』『アズミ・ハルコは行方不明』などの著書があり、いずれも映画化された人気作品である。両作品とも「地方都市」が描かれており、その描き方は、原作の描写でも映像の演出でも、他に類を見ないほど生々しい。

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