『ONE PIECE』空島編で”脱落”するのはもったいない! ロマン溢れる冒険譚の魅力を再検証

 「週刊少年ジャンプ」にて1997年に連載を開始し、今なお不動の看板作品としての地位を確立している海洋冒険ファンタジー作品『ONE PIECE』(集英社)。最新97巻時点での累計発行部数は4億7000万にのぼり、歴代漫画作品でもダントツのトップとなっている。今日まで『ONE PIECE』は漫画界の第一線を走り続けてきたが、刊行から20数年、単行本巻数も90巻を突破すれば、連載途中に”脱落者”が出てしまうことも想像に難くないだろう。

 その”脱落者”が多いと言われているストーリーが存在する。それが麦わらの一味が空の海で大冒険を繰り広げる、“空島編”だ。そこで本稿では空島編での脱落者が多い理由を考察し、その上でストーリーの魅力を改めて紹介する。

 空島編はルフィ達麦わらの一味のログポースが、航海中に空を指す場面から始まる。空に浮かぶ島・空島があると仮説を立てたルフィ達は、海賊が闊歩する島・ジャヤで空島についての情報収集を始めた。しかし空に島があるという非現実的な話を本気で信じるルフィ達を見て、海賊達は大笑いし、蔑む。

 そんな中1人の男が、一味のロマンを叶えるべく名乗りを挙げた。その男の名はモンブラン・クリケット。モンブラン・クリケットは世界中で嘘つきとして知られる、冒険家・モンブラン・ノーランドの子孫である。黄金卿をジャヤで見たと自国の王に嘘をついたノーランド。クリケットはそんなノーランドの子孫であるが故に、毎日を馬鹿にされ生きてきた。

 そしてクリケットは自身を苦しめてきたノーランドとケリを付けるため、ノーランドが処刑直前に残した「黄金卿は海に沈んだのだ」という言葉のもと、毎日黄金を探しに身一つで海に潜り続けていたのだ。彼もまた人に笑われ、誰も信じないロマンを追い求める海賊だったのである。クリケットは空島に行く方法を一味に指南し、自分のような馬鹿な夢を見るルフィを、海賊団総出で援助する。

 空島への出航当日、ルフィはフライングモデルとなったゴーイング・メリー号で、ノックアップストリーム(突き上げる海流)が発生する目標地点へと帆を進めた。一気に立ち昇る海流に乗って、空に向かって突き進む船。気付けば一味は、空に浮かぶ白い海の上を漂っていた。大喜びで空に浮かぶ国・スカイピアに上陸するルフィ達。空島の不可思議さに大興奮の一味だが、空には空を治める人間がおり、空には空の戦いがあった。こうしてルフィ達は空島での戦いに巻き込まれていくこととなる。

 “他人に笑われた夢を実現する爽快感”や“海賊が空を旅するワクワク感”など、こんなにも面白い要素が備わっているにも関わらず、冒頭でも述べたように空島編での脱落者は多い。その理由は主に「敵キャラの物足りなさ」にあると筆者は考える。

 『ONE PIECE』でも屈指の人気エピソードとして語られるアラバスタ編。アラバスタ編の人気の理由には、名悪役として名高いクロコダイル率いる秘密結社・バロックワークスの存在がある。王下七武海サー・クロコダイルの名前には当時計り知れないほどの迫力があり、組織メンバーを実力順にランク付けするシステムも、少年心をくすぐる仕様となっていた。

 しかし空島編での敵である神官やシャンディアなどは、悪魔の実の能力者もおらず格上の相手というわけでもないため、どこか物足りなさを感じる。

 そのなかで空島編最強の敵である神(ゴッド)・エネルは、ロギア系悪魔の実・ゴロゴロの実の能力者だ。雷の力を操りどんな強者でも一撃で仕留めてしまうエネルに、絶望した読者も少なくないだろう。それだけに一味はどのようにエネルに一矢報いるのか気になったものだが、その方法はゴムと電気の相性を利用しルフィが勝利するという少々呆気ないものだった。クロコダイルを打ち負かした際は、知恵を振り絞り工夫を凝らして勝利をもぎ取ったルフィ。もちろんルフィ自身の実力が高いことは大前提にあるが、“ゴムの能力を得ていたから勝利した”というある意味運要素が強い勝ち方に、少しがっかりしてしまった読者も少なくないように思う。

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