凪良ゆう&瀬尾まいこ、本屋大賞受賞者の新作が2作ランクイン 文芸書ランキング
8位『夜明けのすべて』も、瀬尾まいこ氏の2019年本屋大賞受賞後第一作。主人公は2人。生理が始まって以来PMS(月経前症候群)に苦しめられてきた藤沢さん(28歳)と、2年前にパニック障害を診断された山添くん(25歳)だ。
PMSとパニック障害。一見、なんの共通項もなさそうな病である。だが山添くんの落とした薬は、かつて藤沢さんが処方されたものだった。親近感から手を差し伸べようとする藤沢さんに対し、最初、山添くんは反発する。いつパニックに襲われるともしれず、電車に乗ることもできなくなった自分のほうが、月に一度のPMSよりつらいに決まっている、と。けれど症状はちがえど、似た傷と痛みはある。医者にかかっても根本的な解決法を見つけられないまま望んだ仕事を続けられなくなり、小さくてアットホームな会社にやむをえず再就職した、という点で2人は同じなのだ。人生を壊すほど重い症状を、誰にも理解してもらえないという点も。
相手の痛みを理解するということは、その実際を実感する、ということではない。仮に同じ痛み、同じ症状だったとして、耐えられる程度は人によってちがう。自分には想像もつかないけれど相手がとほうもなく苦しんでいる、ということを受けいれる姿勢が大切なのではないだろうか。藤沢さんと山添くんは、それぞれ発症するタイミングも、仕事上での得意・不得意も異なる。だからこそ自分に手を差し伸べられるタイミングで、できることを補いあっていく。そんな2人を会社の人たちもそっと見守り、全員で居心地のいい場所をつくりあげていく。それこそが「ともに生きる」ということなのだと、本書を読むと思う。
〈人生は想像より厳しくて、暗闇はそこら中に転がっていて、するりと舞い込んできたりします。でも、夜明けの向こうにある光を引っぱってきてくれるものも、そこら中にきっとあるはずだと思いたいです。〉
――これは発行元である水鈴社のホームページに掲載されている瀬尾氏直筆の手紙だが、自身が2年前にパニック障害を発症した経験を綴ったこちらもあわせてぜひ読んでみてほしい。ただし物語は物語として純粋におもしろいので、先入観なしで読むためにも読了後をおすすめする。そのほうがおそらく、より沁みる。
■立花もも
1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行い、現在「リアルサウンドブック」にて『婚活迷子、お助けします。』連載中。
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