『東京BABYLON』アニメ化で再注目! CLAMP 未完の大作『X』に描かれた、90年代の不安

 この「誰か」のうちに「自分自身」も入るとしたら、「本当の願い」を自覚しない限り「地の龍」に勝てないとされる主人公・司狼神威も「大事なこと」を見失っているのかもしれない。彼が声に出して望むのは「大切な幼なじみを守ること」、そして「幼なじみを取り戻すこと」。このなかに「自分も生きたい」、「自分も彼らと一緒に生きたい」欲求は感じられない。2020年現在、18巻で単行本が止まっている『X』だが、実のところ、その続きとなる数話分が2009年に刊行された『ALL ABOUT CLAMP』に再収録されている。ここでは、東京タワーで最終決戦が始まり、劣勢となった司狼神威が自らの「本当の願い」に気づいたような瞬間で終わっている。

 『ALL ABOUT CLAMP』において『X』は「最も時代に振り回された作品」だと作者陣より語られている。これにはまず、1990年代からさらなる変化を遂げた東京という都市の存在がある。同書で語られたように、2000年代後半に描かれたなら「結界」ランドマークに六本木ヒルズが入っていただろうし、今なら東京スカイツリーもはずせなさそうだ。しかしながら、2020年の世界には、より増大した1990年代的な不安も見受けられる。たとえば「地の龍」サイドの視点で重要となる環境汚染。気候変動危機の問題意識が2010年代にかけて拡大した結果、西洋では「人類の環境破壊によって滅亡する地球で無責任に子どもを産みたくない」と語る若者の絶望に注目が集まっていった。こうした不安の波は、ゆくゆく日本でも広がってゆくのかもしれない。当然ながら、私たちは、かつてCLAMPが描いた1990年代のその先を生きている。だからこそ、世紀末を乗り越えて20年経っても、多くの読者が『X』の続きを切に願うのかもしれない。司狼神威が選ぶのが生きる意志だろうと、はたまた別のものだろうと、不安に揺らぎながら生きる私たちはその決断を見届けたいのだ。

■辰巳JUNK
平成生まれ。おもにアメリカ周辺の音楽、映画、ドラマ、セレブレティを扱うポップカルチャー・ウォッチャー。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)
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