『フルーツバスケット』本田透が教えてくれた、人を愛することの意味 

 十二匹の動物と神様の宴会。そして宴会に参加できなかった猫――。

 十二支のおとぎ話をモチーフとする少女漫画がある。日本のみならず世界中からも支持を受け、昨年2019年から「全編アニメ化!」と力強く銘打たれたアニメが放送中の作品。それが高屋奈月の『フルーツバスケット』だ。

 連載終了から10年以上経った今でも愛され続けるこの作品の「愛の源」とも呼べる主人公・本田透についてを、ここで読み解いてみたい。

※以下、ネタバレあり

 『フルーツバスケット』は、「異性に抱きつかれると十二支の動物に変身する」という呪いを持つ一族・草摩家の面々と、両親を亡くした本田透の物語だ。

『フルーツバスケット 愛蔵版 3』

 十二支の物の怪の呪いを持って生まれた子供たちは、そのほとんどが心に大きな傷を抱えている。動物の姿になってしまう我が子を受け入れられない親から手酷く拒絶されたり、そのせいで家庭が壊れてしまったり、それを「おまえのせいだ」となじられたり。歪んだ環境で、十分な愛情を受けられずに育った者が多い。

 家の外でも、その生きづらさがやわらぐことはない。変身の秘密がばれないよう常に注意深く生活しなければならないし、仮に好きな異性ができたとしても、抱き合ったりすることはできない。自然と彼らは心を閉ざし、他人と一線を引いて生きるようになる。

 例えば、子(ねずみ)の呪いを持つ草摩由希。眉目秀麗で人当たりもよく、学校では王子様扱いされている由希だが、彼もまた家族から冷たくあしらわれ、自分を否定され続けた過酷な過去を持つ。

“「自分を好きになる」って…それってどういう事なんだろう”

“嫌いな所しかわからない。わからないから嫌いなのに”

“誰かに「好きだ」って言ってもらえて初めて…自分を好きになれると思うんだ”

 自分を愛す方法を知らないまま生きる由希と出会うのが、本田透だ。

 天然でバカがつくほどお人よしの透は、偶然十二支の呪いを知ってしまう。けれど気味悪がることもなく、ごく普通に由希たちに接する。普通に笑いかけ、普通に親切にし、普通に隣に座る。透はとびぬけて頭がいいわけでも、特殊な能力を持っているわけでもなく、作中でも「普通の子」と評される。けれど、「普通」に扱ってもらったことのない十二支たちにとってその「普通」は初めて出会うものであり、かけがえのないものとなって、少しずつ心を溶かされていく。

 由希にも、透の言葉は太陽のように降り注ぐ。

“お友達になって下さいね”

“草摩君の優しさはロウソクみたいです。ポッと明かりがともるのです。そうすると私は嬉しくてニッコリしたくなる”

“由希君‼ 遊びましょう‼”

 あたたかい「好き」を惜しみなく贈る透。そんな透は、由希だけでなくほかの十二支たちにとっても、「自分を好きになる最初の一歩」を与える存在になっていく。

 だが、透自身も決して恵まれた環境で育ったわけではない。幼くして父が病死し、高校に上がった直後に母も事故死。親戚からは厄介者扱いされている。

 それでも、透はいつでもひたむきで、前向きだ。一時はテント生活さえ余儀なくされながら、仲の良い友達がいることに感謝し、バイトに励み、母の望んだ高校卒業を目指す。

 透のこの強さは、母・今日子からの溢れんばかりの愛ゆえだ。

 今日子は絶え間ないほど「透は可愛い」という言葉を口にし、透が迷子にでもなれば周りが引くほどうろたえ、最後にはキレ始める。あけっぴろげなその愛情を、透もまっすぐに受け取っている。

“私はお母さんに可愛いって言われる事が嬉しかったです。大好きだぞーって言ってもらえてる事だから”

 途中で何度も差しはさまれる透と今日子の回想は、いつだって二人の幸福な笑顔で彩られている。母子家庭での暮らしは楽でも裕福でもなかったはずだが、もっと大切なもので満たされているのがわかる。

 透は満たされること、愛されることを知っている。そして、そういう相手がある日ふいにいなくなってしまうことも知っている。だからこそ、愛されることを知らず、孤独にたたずんでいる人にも自然に寄り添うことができるのだ。

 そんな透にとって、特別な存在になっていくのが草摩夾だ。

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