『鬼滅の刃』に通じる名作漫画を再読ーー『犬夜叉』『るろうに剣心』『鋼の錬金術師』

『るろうに剣心 ―明治剣客浪漫譚―』ーー刀を手にした男たちと悪役の美学

『るろうに剣心』1巻

 ふたつ目の作品として、刀を手にした男たちの戦いと、悪役の美学というキーワードから、和月伸宏の『るろうに剣心 ―明治剣客浪漫譚―』を取り上げる。1994年から1999年まで『週刊少年ジャンプ』に連載された本作は、90年代後半のジャンプの看板作品であった。時は明治11年。幕末に「人斬り抜刀斎」として多くの暗殺を手がけた伝説の剣客は、今は緋村剣心と名乗り、「不殺」を誓う流浪人として全国を旅していた。そんな剣心が神谷薫と出会い、激動の時代を生き抜いた宿敵たちと再び剣を交えるなかで、自らの贖罪の答えと新しい生き方を模索する。

 『鬼滅の刃』に登場する鬼殺隊士は、日輪刀という刀と、身体能力を高める呼吸法を駆使し、鬼との闘いに挑む。こうした武器の描写や必殺技は、いつの時代も人気が高い。『るろうに剣心』の剣心は、殺傷能力を持たない逆刃刀を握り、古流剣術の流派をくむ飛天御剣流で敵を倒してゆく。元新選組で幕末時代から剣心と因縁のある斎藤一は、「悪・即・斬」を信念に、日本刀を使った必殺技・牙突で闘い抜いた。他にもさまざまな武器や戦術を扱う人物たちを活写しながら、『るろうに剣心』はバトル漫画の王道ともいえるスタイルを築き上げた。

 そして物語の面白さを決定づける重要な要素となる、魅力的な敵役。「京都編」に登場する志々雄真実は、『るろうに剣心』史上最も強く、カリスマ性にあふれた敵役である。全身の火傷でミイラのように包帯を巻いた姿という外見のインパクトもさることながら、弱肉強食を理念に掲げて明治政府の転覆を企て、ピカレスクな存在感で物語を盛り上げた志々雄真実。『鬼滅の刃』の鬼舞辻無惨にも通じる、悪の美学を貫いたキャラクターとして印象深い。

『鋼の錬金術師』ーー異形の身体と家族の絆

『鋼の錬金術師』1巻

 最後に、異形の身体と家族の絆というキーワードから、荒川弘の『鋼の錬金術師』を紹介しよう。『鋼の錬金術師』は2001年から2010年まで『月刊少年ガンガン』に連載された、西洋風ダークファンタジー作品である。高名な錬金術師を父にもつ兄エドワード(エド)と弟アルフォンス(アル)のエルリック兄弟は、亡き母を蘇らせようと錬金術の最大の禁忌である人体錬成を行い、失敗する。この時に兄は左足を、弟はすべてを失い、エドは自身の右腕を代償にアルの魂を錬成して鎧に定着させることで、かろうじて弟をこの世につなぎとめた。その後、エドは失った右腕と左脚に機械鎧を装着し、国家錬金術師の資格を取得する。そして異形となった弟と自身の姿を元に戻すため、絶大な力を持つ「賢者の石」を探す旅に出る。

 『鬼滅の刃』を貫く柱となるのが、主人公の炭治郎と鬼と化した妹・禰豆子の、家族愛の物語だ。『鋼の錬金術師』でもまた、それぞれに異形の身と化したエルリック兄弟の深い絆と、弟の肉体を取り戻そうと奮闘する兄の姿が描かれてゆく。ともに力を合わせて戦うエルリック兄弟だが、自分の存在に疑いをもったアルとエドの間に亀裂が生じた場面もあった。そんな二人のすれ違いと和解を通じ、絶対に元の姿に戻ろうとする決意を描いた第15話「鋼のこころ」は、初期の名シーンとして忘れがたい。基調となる世界観は異なるが、兄弟の関係性に光を当てた名作として、『鬼滅の刃』の読者におすすめしたい漫画である。

 ここまで、いずれも強いインパクトを残した人気作品を列挙してきた。特に『鬼滅の刃』とも通じる要素に光を当てることで、これらの作品の秀逸な点を振り返ることもできるだろう。そして、『鬼滅の刃』を愛読した人々が本記事で示したような共通性を入口に、過去の名作にふれる好機になればなによりである。

■嵯峨景子
1979年、北海道生まれ。フリーライター。出版文化を中心に幅広いジャンルの調査や執筆を手がける。著書に『氷室冴子とその時代』や『コバルト文庫で辿る少女小説変遷史』など。Twitter:@k_saga

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