『鬼滅の刃』に通じる名作漫画を再読ーー『犬夜叉』『るろうに剣心』『鋼の錬金術師』
社会現象を巻き起こした吾峠呼世晴の『鬼滅の刃』は5月、人気絶頂の中で最終回を迎えた。2016年から『週刊少年ジャンプ』で連載されてきた本作は、2019年4月のアニメ化をきっかけに大ブレイクし、シリーズの累計は6000万部を突破する。今や国民的漫画といえる知名度を獲得し、老若男女を魅了する『鬼滅の刃』の勢いは、まだまだ止まりそうにない。
『鬼滅の刃』の舞台となるのは大正時代。竈門家の長男炭治郎の外出中に人喰い鬼が家族を惨殺し、妹の禰豆子は一命を取りとめるも鬼と化していた。大切な妹を人間に戻すため、炭治郎は鬼を滅する「鬼殺隊」に入隊し、人喰い鬼の原種にして首魁・鬼舞辻無惨を倒す戦いに身を投じる。『鬼滅の刃』は刀を武器にした少年漫画らしいバトルを描く一方で、主要キャラや人気キャラが容赦なく死亡するという、シビアかつハードな展開を貫いた。『週刊少年ジャンプ』の伝統を引き継いだうえで、そのセオリーを打ち破り、革新的なカラーを生み出した『鬼滅の刃』は、今日の少年漫画の最前線を疾走し続けた作品である。
劇場映画の公開や、スピンオフ作品の連載決定、そしてコミックス刊行など、『鬼滅の刃』の展開は今後も続いていく。とはいえ、毎週追いかけていた本編が終了したことで、“鬼滅ロス”に陥っている読者も少なくはないだろう。今回はそんな人のために、先行する少年漫画作品から、『鬼滅の刃』にも相通じる要素を多分に備え、かつ漫画というエンターテインメントの可能性を存分にみせてきたタイトルをいくつか紹介してゆきたい。
あらためてそれらの作品を味わいながら、その系譜の最新系でもあった『鬼滅の刃』の魅力のありかを再確認するきっかけになれば幸いである。
『犬夜叉』ーー和風な世界観と人にあらざるものとの戦い
まずは、和風な世界観と、人にあらざるものとの戦いを描いた作品という観点から、高橋留美子の『犬夜叉』を取り上げる。1996年から2008年まで『週刊少年サンデー』に連載された『犬夜叉』は、現代から戦国時代にタイムスリップした中学生のかごめが、半分人間の血が混ざった半妖の犬夜叉と出会い、強大な力を持つ「四魂の玉」をめぐる戦いに巻き込まれていく物語である。
高橋留美子の作風は、『うる星やつら』などのドタバタラブコメから、シリアス路線の『人魚の森』まで幅広い。シリアスの系譜に属する『犬夜叉』は、人に害をなす妖怪との戦いを軸に、憎しみや嫉妬などの負の感情にも踏み込み、少年漫画でありながら男女の濃密な愛憎劇を展開した。物語を通じて犬夜叉の宿敵として立ちはだかる奈落もまた、恋慕から生じた邪念が生み出した存在である。妖怪と対峙するバトル描写がもたらすケレン味と、人間の情念に迫った重さのあるストーリーは、『鬼滅の刃』にも通じるアプローチを取り入れた作品といえよう。
『犬夜叉』は『鬼滅の刃』同様、キャラクター人気という点でも名高い作品である。犬夜叉や、その異母兄で妖怪の殺生丸をはじめ、敵味方含めて個性豊かな人物が多数登場し、物語を盛り上げていく。初期はヒール役でありながら、人間の少女・りんとの出会いをきっかけに大きく変化を遂げる殺生丸は、『犬夜叉』を代表する人気キャラクターの一人だ。敵役では七人隊が短い登場ながらもインパクトを残し、図抜けた腕力と男気溢れるリーダーの蛮骨や、サディスティックな男色家の蛇骨が人気を博した。和風な世界観を反映したキャラクターデザインの秀逸さという観点からも、改めて『犬夜叉』に注目したい。