『流浪の月』『ぼくイエ』は自粛の日々に“考える”機会を与える 文芸書週間ランキング

週間ベストセラー【単行本 文芸書ランキング】(5月12日トーハン調べ)
1位『流浪の月』凪良ゆう 東京創元社
2位『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ 新潮社
3位『逆ソクラテス』伊坂幸太郎 集英社
4位『クスノキの番人』東野圭吾 実業之日本社
5位『猫を棄てる 父親について語るとき』村上春樹 文藝春秋
6位『ライオンのおやつ』小川 糸 ポプラ社
7位『流人道中記 上』浅田次郎 中央公論新社
8位『流人道中記 下』浅田次郎 中央公論新社
9位『大河の一滴』五木寛之 幻冬舎
10位『気がつけば、終着駅』佐藤愛子 中央公論新社

 先月のランキング記事で予想したとおり、本屋大賞を受賞した『流浪の月』がランクインで、堂々1位。緊急事態宣言により多くの書店が休業し、Amazonも本は生活必需品でないとして欠品の補充を一時見合わせていたなか、5月1日には重版が決まり累計37万部を突破した。

 もともとはBLジャンルで活躍していた凪良氏が、一般文芸に進出したのは、2007年に刊行された『神さまのビオトープ』がはじめて。亡き夫の幽霊と暮らす女性が主人公、といういっぷう変わった物語だが、幸せの定型におさまることのできない人たちの生きづらさ、という根底に流れるテーマは、これまで書き続けてきたBL作品と通じるものがある。そして『流浪の月』もまた、少女時代に誘拐・監禁された女性と、少女しか愛せない犯人の男性という、ふつうなら心を通わせるとは思えない――あるいは、通わせているとしたらつり橋効果としか思われない――関係性の2人が、誰になんといわれようと、思われようと、譲ることのできない幸せのかたちを、葛藤のなかで追い求めていく作品だ。

 『流浪の月』は刊行前から、ゲラを読んだ書店員たちを中心に話題になっていたが、それは書店員の多くが本に救われた経験をもつ人たちだったからではないだろうか。筆者自身、幼いころから“みんなと一緒”が苦手だった。“ふつう”の仲間入りをしたくてもうまくできなくて、することが自分の幸せでもないことをうすうす感じていた。そんな、さびしさをもてあますなかで、希望と勇気をくれたのが本であり、物語だ。目の前に見えている現実以外にも、世界はある。まわりの人たちが言う“正しさ”以外にも、選択肢はある。多様性、と叫ばれながら同調圧力のいまだ強い世の中で、自分の信じたいものを信じて生きていていいのだと、凪良作品は背中を押してくれる。自粛の閉塞感と孤独感が続くなか、作品はより強く読者の救いになってくれたのだろう。

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