東方神起、BIGBANG、BTS……K-POPの源流は1960年代に 小説『ギター・ブギー・シャッフル』が描く、韓国音楽シーンの誕生

 ちなみにキム・キキのモデルは、韓国を代表するベテラン歌手であるユン・ボッキと、「離別」のヒットで知られるパティ・キム。また、本作に登場する天才ギタリストのチェ・ジンは、韓国ロックの重鎮であるシン・ジュンヒョンをモデルにしているという。興味のある方は、こちらもぜひ聴いてみてほしい。

 “キャンプで演奏できるミュージシャンや歌手は米軍が実施するオーディションで決める”という圧倒的な格差、「タンタラ(河原者)」と蔑まれるミュージシャンの地位の低さ、業界に蔓延るドラッグと暴力の問題、奴隷的とも言える契約や移籍の際のトラブルなども綴られるなどーーその多くは今もなお解決しないまま残っているーー朝鮮戦争後から本格的に始まった韓国の音楽界の黎明期がドラマティックに映し出される『ギター・ブギー・シャッフル』。繰り返しになるが、すべての根底にあるのは“米軍基地を介して欧米の音楽を受け入れ、発展してきた”という事実だ。アメリカで流行っている音楽をいち早く取り入れ、米軍の好みに合った演奏ができるミュージシャン、白人のように歌える歌手がスターダムを駆け上がっていく図式は、誤解を恐れずに言えば、現代のK-POPのひな型そのものだと思う。

 また、この小説で描かれている音楽業界の在り方は、戦後の日本のポピュラー音楽と重なるところも多い。敗戦後の日本において、海外のポップカルチャーの発信源はまちがいなく米軍基地であり、GHQを相手に演奏したジャズマンたちがその後の音楽シーン、芸能界の礎を作ったことは周知の事実だ。

 作者のイ・ジンは、本作の冒頭に掲載されている「日本の読者のみなさんへ」のなかで、90年代の日本の文化への愛着について言及している。輸入が禁止されていたものの、じつは韓国の多くの若者が楽しんでいた日本のポップミュージックやマンガ、アニメ、ゲーム。「一九八〇年代生まれでまだ『若手』の私が、一九六〇年代にソウルでロックンロールを楽しんでいた人々に関する物語を書けたのは、十代の頃の経験の賜物ともいえます」という記述からは、彼女の音楽、カルチャーへの強い思いが伝わってくる。その思いこそが、『ギター・ブギー・シャッフル』の執筆の原動力になったことは想像に難くない。

■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。

■書籍情報
『ギター・ブギー・シャッフル』
イ・ジン/著岡 裕美/訳
発売日:4月10日
価格:2000円+税
出版社:新泉社
公式サイト:https://www.shinsensha.com/books/3291/

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